生物を大量絶滅させたのは小惑星

【2010年3月10日 University of Cambridge/東北大学 津波工学研究室】

約6,500万年前の白亜期に起こった生物の大量絶滅は、小惑星の衝突によって引き起こされたと結論づける研究成果が発表された。小惑星の大きさは直径が約15kmで、衝突の威力は広島型原子爆弾の10億倍以上だったと推定されている。


(地球に衝突する小惑星の想像図)

地球に衝突する小惑星の想像図。クリックで拡大(提供:NASA/Don Davis)

(チクシュルーブ・クレーター周辺地図)

メキシコのユカタン半島にあるチクシュルーブ・クレーター周辺の地図(提供:World Book Map)

約6,500万年前の白亜期に生物の大量絶滅が起こった。その原因は、メキシコのユカタン半島にチクシュルーブ・クレーター(チチュルブ・クレーターとも呼ばれる)を作った小惑星の衝突か、それともインドのデカン高原で150万年ほど続いた大規模な火山活動か、長い間議論が続けられてきた。

その議論に決着をつけたいと、地質学、古生物学、地球物理学、惑星化学などの分野における、12か国41名の研究者が参加して、国際的なチームが結成された。日本からは、千葉工業大学惑星探査研究センター所長の松井孝典氏、東北大学大学院工学研究科付属災害制御研究センターの助教 後藤和久氏が参加した。

研究チームでは、生物大量絶滅に関する過去20年分の研究資料を見直した。その結果、チクシュルーブ・クレーターを作った小惑星の衝突によって生物が絶滅したことを示す、多くの証拠が明らかになった。

研究チームが証拠としてあげている主なものは、以下のような点である。

  • 世界約350か所の地点における地層に、チクシュルーブ衝突を起源とする物質が含まれていた
  • 衝突と絶滅の発生時期が世界中の地層で一致している
  • 衝突で放出された粉塵や森林火災に伴う煤の量や大気中の滞留時間が、光合成生物の活動を長期間停止させうる

また、研究チームでは、火山活動による生物大量絶滅の可能性を否定している。その理由は、白亜期をまたいで100万年ほど続いた火山活動で生じた温度変化は2度未満であったこと、さらに、火山活動がもっとも強かった時期と生物の大量絶滅の時期が一致していないなどである。

なお、チクシュルーブを襲った小惑星は直径約15kmで、その威力は、広島型原子爆弾の10億倍以上と推定されている。その衝突によって、物質が高速で大気中に吹き飛ばされて太陽光が遮られ、広範囲が冬のような気候となり、地球上の生物はたった数日で絶滅することになったという。

研究チームに参加した英・ケンブリッジ大学 地球科学科のPenny Barton博士率いるチームは、メキシコ湾の地震調査を実施し、チクシュルーブ・クレーター内部の構造を明らかにした。続いてコンピュータによるモデル計算で、衝突で吹き飛ばされたり蒸発したりした岩石の量を推測した。

モデル計算の結果についてBarton博士は「小惑星が爆発的な勢いで蒸発した後、深さ30km、直径100kmのクレーターが形成されました。側面は、一瞬でヒマラヤ山脈ほどの高さにまで盛り上がりましたが、たった2分で内側に向かって崩落したのです。それによって、広範囲に浅いくぼみが残されました」と説明している。

さらに、「この恐るべき現象によって、広範囲に暗闇の冬が訪れ、70パーセント以上もの生物が絶滅しました。その当時、ネズミのような小さな哺乳類は、恐竜よりも過酷な環境に適応していました。そのような哺乳類を祖先として、その後多様な子孫が出現し、それが人類の誕生へとつながったのです」と話している。