高校生の体験学習「美ら星研究体験隊」、新しい電波星を発見

【2010年9月1日 国立天文台】

国立天文台のVERA石垣島観測局で行われた天文学研究の体験企画「美ら星研究体験隊」に参加した高校生らが、いて座の方向に新しい電波星を発見した。同企画におけるこの種の天体の発見は、2005年と2008年に続いて3例目となった。


(発見された電波星(メーザー天体)の位置)

発見された電波星(メーザー天体)の位置。クリックで拡大(提供:国立天文台)

国立天文台のVERA(ベラ)石垣島観測局では、2002年の完成以降さまざまな広報普及活動を行っているが、その一環として、2005年の夏から毎年、沖縄県の高校生を対象とした「美ら星研究体験隊(ちゅらぼしけんきゅうたいけんたい)」を開催している。この企画の参加者は、口径20mの電波望遠鏡を使った観測やデータ解析を行うことで天文学者と同じ研究を体験し、世界最先端の科学を身近なものに感じることができる。

今年の「美ら星研究体験隊」は8月11日〜13日にかけて開催され、高校生12名が2泊3日の体験学習に臨んだ。参加者は班にわかれて観測の方法や対象とする天体を検討し、続いて実際の観測を行った。そして、3班で合わせて計48個の天体を観測し、専用ソフトを使ったデータの解析を行った。

その結果、いくつかの天体からメーザー(レーザーの電波版)放射と思われる電波が検出され、そのうちの1つがこれまでに検出の報告例のない電波星(メーザー天体)である可能性が高いことがわかった。その後、国立天文台の観測により、新発見の天体であることが確認された。

メーザー放射(とくに今回観測を行った水蒸気メーザー)は生まれたての星(原始星)でしばしば観測され、星の周りのガスから放射されていることが知られている。高校生らが発見したメーザー天体は、NASAの赤外線天文観測衛星スピッツァーによる観測で見つけられた星(赤外線星)から選ばれたリストに含まれる星の位置と一致している。

赤外線星の名前は「SSTGC 0246410」(「スピッツァー宇宙望遠鏡 銀河中心プロジェクトの246410番目の天体」の意味)。いて座の方向にあり、さそり座、へびつかい座との境界に近い天の川の中に位置する。その周辺に水蒸気メーザーが過去に検出された報告例はなく、データベースや過去の論文にも記載がないことから、高校生によって新たに発見されたメーザー天体と判断された。

この天体が銀河系の中心領域にあるのかどうかはまだわかっていないが、VERAを使った今後の観測から距離が求められ、銀河系の中心領域のメーザー天体であることが明らかになれば、この星が生まれたであろう銀河系中心領域の分子ガスについての新しい知見が得られると期待されている。