何の予兆もなく起こる、太陽による高エネルギー粒子大放出

【2010年12月9日 CfA

太陽の表面で巨大なコロナ質量放出(CME)が起こって高エネルギー粒子が放出されると、地球上では磁気嵐が起こり衛星などに深刻な影響が及ぶ。そのため、CMEの予測に関する研究が進められているのだが、最新の研究の結果、約3分の1のCMEには発生の目印となるような予兆が見られないことが明らかとなった。


(STEREOが複数の波長でとらえた太陽の画像)

STEREOが複数の波長でとらえた太陽。クリックで拡大(提供:NASA)

コロナ質量放出(CME)とは、太陽の表面から数十億tもの高エネルギー粒子が時速100万km以上の高速で宇宙空間に放出される現象だ。巨大なCMEが地球に面した側で発生すると、地球の磁場全体が乱れる「磁気嵐」が起こり、通信衛星やGPS衛星などに深刻な影響を及ぼす。

そのため、研究者は太陽を観測し情報を集め、いつCMEが起こるのかという予測に役立てようとしているのだが、最新の研究によって、一部のCMEがまるで奇襲攻撃かのように何の前触れもなく起こる可能性が示唆された。

米・ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのSuli Ma氏は「昔からある危険標識のようなものに頼って宇宙天気の予報を出していたら、太陽で起こる爆発的現象の重大な部分を見逃すことになるでしょう」と話している。

研究チームでは、NASAの太陽観測衛星STEREOを使って、8か月以上にわたり全34回のCMEについて関連現象が見られるかを調べた。STEREOは双子の衛星で太陽の全球を観測することができるので、予兆を調べるのに適している。

STEREOによる観測が行われる以前、すべてのCMEの発生には前兆となるような現象が伴っていると考えられてきた。CMEに伴う現象としては、CMEより小さな爆発であるフレアや、CMEによる物質の放出によってコロナが暗くなる現象、または、太陽の表面で長いリボン状のプラズマがアーチ形に伸びるフィラメントの爆発などがある。それらの発生を察知できれば、近々起こるCMEを予測できるだろうという考え方だ。

しかし、34回のCMEのうち11回には、そのような現象は見られなかった。このことは、どんな機器を使って太陽を観測し続けても、全体の3分の1のCMEは観測の目をすり抜けるようにして発生してしまうことを意味している。

同研究チームが観測を行ったのは、太陽活動が穏やかな極小期にあたる。一方、今後太陽は数年間にわたり活動が活発な時期に入る。次に活動が最大となるいわゆる極大期は2013年から2014年で、その際には状態に変化が現れるかもしれない。研究チームでは、CMEの予測につながるようなかすかな証拠探しを続ける計画だという。