超新星爆発の瞬間をとらえる 木曽観測所の画期的プロジェクト
【2012年7月2日 木曽観測所】
今年4月、長野県の木曽観測所(東京大学大学院)で超新星爆発の瞬間を初めて可視光でとらえる試み「KISSプロジェクト」が始まった。アマチュア天文家との協力により、今後3年で数個の「爆発の瞬間」をとらえる見通しだ。
非常に重い星や、連星の一部は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こします。宇宙に存在する元素の多くは、超新星爆発の際に生成されたと考えられており、宇宙全体の進化を担ってきた重要な現象です。近年、世界中の多くの研究機関で、超新星爆発をターゲットとした観測が行われていますが、爆発の詳細なメカニズムや、爆発直前の星の姿は未解明のままです。爆発の「瞬間」を観測でとらえることができると、特に、爆発前の星の姿の解明につながりますが、観測が難しく、これまでX線と紫外線の衛星による偶然の発見3例しかありませんでした(参照:天文ニュース 2008/5/23「超新星爆発の瞬間がとらえられた」)。
そこで、東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所を中心とする、甲南大学、国立天文台、ロチェスター工科大学、広島大学、台湾国立中央大学等の研究者からなるグループは、地上からの大規模探査が可能な可視光での爆発の瞬間の光の検出を目指し、同観測所が新しく開発した超広視野CCDカメラ(KWFC:Kiso Wide Field Camera)を木曽105cmシュミット望遠鏡に搭載し、大規模な超新星探査プロジェクト「Kiso Supernova Survey(KISS)」を2012年4月より開始しました。
KWFCは一辺2度角四方(満月16個分)もの広視野を持ち、効率良く、超新星のような稀な現象を観測することができます。KISSプロジェクトでは、特に、爆発の際に発生する衝撃波が星内部から表面を通過する際に起こる「ショックブレイクアウト」という現象の検出を目指しています。そこで、空の広い領域を一晩に1時間おきに複数回、頻繁に監視するという、他の超新星探査とは違う手法で、この極めて稀な現象をとらえようとしています。
また、KISSプロジェクトは、アマチュア天文家との協力体制を組み、共同で研究を進めるという世界的にも珍しい試みを始めようとしている点も特徴です。既に赤方偏移0.02-0.04の3つの超新星爆発の発見に成功し、国際天文学連合(IAU)によりSN 2012cm、SN 2012cq、SN 2012ctと命名されました。今後予定している年間100晩の観測を3年間続けることにより、合計100個以上の超新星を発見し、その中の数個の超新星に対しては、その爆発の瞬間をとらえることができる見通しです。