世界で一番高い天文台から見えた銀河の形の起源
【2012年8月3日 東京大学】
標高5,640mと世界一高い場所にある天文台での観測から、銀河の星生成活動の詳細が明らかになった。銀河の形状がその形成段階からはっきり分かれている可能性を示唆するなど、銀河の成り立ちの過程をより詳しく知る手がかりとなる。
1年間に太陽数十〜数百個分に相当する大量の星を生み出している形成途上の銀河は、強い赤外線を出すことが知られている。しかしその活動の詳細は、星生成活動で大量に生成される塵の雲に隠され、よくわかっていなかった。
東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センターを中心とする研究グループは、水素パッシェンα(Paα)輝線と呼ばれる特定の波長の赤外線に着目して観測を行った。Paα輝線とは、宇宙空間の中性水素原子が恒星からの紫外線によって電子と陽子に分離され、再び結合する際に放射されるものだ。
この輝線は銀河中の塵の雲を通り抜けてくるが、地球大気中の水蒸気に吸収されやすいという特徴がある。水蒸気の影響をできるだけ小さくするため、研究グループは天文台としては世界最高地点である標高5,640mのチャナントール山山頂(南米・チリ)の東京大学アタカマ天文台に口径1mの光学赤外線望遠鏡(通称miniTAO:ミニタオ)を建設した(画像)。
miniTAOによる観測では、数多くの爆発的星生成銀河をPaαで撮像観測する同種のプロジェクトとしてはこれまでで最多の、38個もの爆発的星生成銀河をPaαでとらえることに成功している。さらに、これらの爆発的星生成銀河は、星生成が活発な領域が銀河の中心部に集中している「楕円銀河に似たタイプ」と、銀河全体に広がっている「渦巻銀河に似たタイプ」の2種類にはっきりと分かれることが明らかになった。
この結果は、現在の宇宙に普遍的に見られる「楕円銀河」と「渦巻銀河」という2種類の銀河の形状が、その形成段階ですでに2つに分かれていた可能性を示唆している。楕円銀河は、はるか昔の銀河同士の衝突合体によって爆発的に星を生成した後、今の形状に落ち着き、その後は星生成をほとんど行わないと考えられていた。だが今回の観測では、楕円銀河の中心では今でも爆発的に星が生まれ、質量を増やしつつあるものが存在することがわかった。楕円銀河の質量形成に、未だ知られざる過程があることを示している。
研究グループでは、今後もさらに多くの爆発的星生成銀河の観測を行い、その性質と成長過程を詳細に明らかにしていく予定だ。