ハッブルが見せる究極の深宇宙
【2012年9月27日 ESA/Hubble】
XDFと呼ばれる領域をとらえたハッブル宇宙望遠鏡(HST)の画像が公開された。画像には132億年前に誕生した銀河を含め、5500個の銀河がとらえられている。
「ハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールド」(HUDF)は、ろ座の方向にある狭い天空の領域で2003年と2004年の観測データを合成して作成された画像だ。今回公開されたのはそのHUDFの中心部、一辺の長さが満月の10分の1よりも狭い領域をとらえたもので、「エクストリーム・ディープ・フィールド」(XDF:究極の深宇宙)と呼ばれている。HSTに搭載されている掃天観測用高性能カメラ(ACS)と広域観測カメラ3(WFC3)を使用し、200万秒の露出時間で2000枚以上を撮影した。
そこには、5500個もの銀河がとらえられている。もっともかすかなものは、肉眼で見える100億分の1の明るさしかない。数時間以上かけた観測によってかすかな光が集められ、地球から近いものからとても遠い銀河まで、多くの銀河の姿があらわになったのだ。
わたしたちの天の川銀河やアンドロメダ座大銀河と形のよく似た大きな銀河や、星の形成を終えた赤いぼやけた銀河もとらえられている。赤い銀河は銀河どうしの合体の残骸で、銀河内の星も年老いている。また、画像のあちこちに散らばっている小さくかすかな遠方銀河は、これから大きな銀河へと成長するものと思われる。つまりXDFは、生まれたばかりの銀河からじゅうぶんに成長した銀河まで、銀河の歴史を絵巻物のように見せてくれるのだ。
HUDF09プログラム主任研究員Garth Illingworth氏(米・カリフォルニア大学サンタクルーズ校)は、「XDFはこれまででもっとも深い宇宙をとらえた画像で、かすかでもっとも遠い銀河を見せてくれています。つまり、これまでにないほど過去にさかのぼった宇宙の研究を可能にしてくれるのです」と話している。
宇宙の年齢は137億歳だが、XDFの画像には132億歳の銀河もとらえられている。初期宇宙では太陽よりも明るく高温の青い星を含む銀河が誕生しており、その頃の光が地球へ届いていることになる。つまりXDFは、ある種のタイム・トンネルといえるわけだ。
HSTが打ち上げられる前に観測可能だったもっとも遠い銀河までの距離は70億光年。宇宙の歴史の半分だ。地上からの観測では、初期宇宙で銀河がどのように形成されるのかを明らかにすることはできなかった。HSTは、銀河が若いころの実際の姿をわれわれに初めて見せてくれた宇宙望遠鏡だ。宇宙が年齢とともに変化してきたことを直接的かつ視覚的に見せてくれたのである。
2018年にはHSTの後継機であるジェームズ・ウェブ宇宙望遠鏡(JWST)の打ち上げが予定されており、同望遠鏡ではXDFも観測される予定だ。宇宙膨張の影響で遠い銀河からの光は赤外線の波長にまで引き伸ばされるが、JWSTの赤外線の眼は、XDFをより深く観測するのに適している。観測が始まれば、最初の星や銀河が生まれた宇宙や、これまで見えなかった“暗黒時代”にも光を当ててくれることが期待される。