4万光年先のガス雲に吹きつける銀河の風

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【2012年12月28日 すばる望遠鏡

次々と星を生み出している銀河M82から吹き出す銀河風が、4万光年離れたガス雲を電離させている様子が見つかった。


すばる望遠鏡がとらえた銀河M82

すばる望遠鏡がとらえた銀河M82。銀河と垂直方向に中心部から広がる赤い部分は、銀河内での激しい活動によって生じた高温の水素電離ガスだ(提供:国立天文台。以下同)

「帽子」ガス雲が電離する仕組みの2つの説

「帽子」ガス雲が電離する仕組みの2つの説。クリックで拡大

「帽子」領域のHα輝線強度分布図

左:M82全体のHα輝線強度分布図/中:「帽子」領域の連続光強度分布図。「帽子」からの連続光は検出されなかった/右:「帽子」領域のHα輝線強度分布図。ガス雲が塊状であることがわかる。クリックで拡大(左図はLehnert et al. 1999, The Astrophysical Journal, 523, 575 の図を一部改変)

大質量の恒星が次々と生まれる「スターバースト銀河」では、星が最期を迎える超新星爆発も次々と起こっている。爆発によって100万度にまで加熱されたガスの圧力により、銀河中のガスが外へ噴き出す「銀河風」が生じている(画像1枚目)。このような銀河風は銀河本体から離れるほど暗くなり観測が難しくなるため、銀河風が一体どこまで広がっているのか、銀河外の空間にどのような影響を与えるのかは、よくわかっていない。

京都大学、東京大学カブリIPMU、国立天文台、愛媛大学、シドニー大学の研究グループは、おおぐま座の方向にある約1200万光年先のスターバースト銀河M82を研究対象に観測を行った。銀河本体のサイズと同じ、約4万光年離れたところには「M82の帽子」と呼ばれる電離(イオン化)したガス雲がある。

なぜ、銀河本体から離れた場所に電離したガスの雲があるのか。その要因として2つの説が提案されていた(画像2枚目)。1つめは、銀河本体で爆発的に生まれている大質量星が放射する紫外線がガスを電離するという説。もう1つは、M82の銀河風として飛ばされたガスが「帽子」のガスと衝突し、発生した衝撃波から紫外線が放射されてガスを電離するという説だ。

研究チームではこの謎を解明するため、すばる望遠鏡に搭載された「京都三次元分光器第2号機」という観測装置を使って「M82の帽子」を調べた。その結果、電離ガスは「帽子」の領域全体に広がっているのではなく、300〜500光年の大きさの塊状であること、それらの塊のHα輝線(電離と再結合によって現れる輝線)の明るさは、上記2つめの説、銀河風による衝撃波によるとした場合の予測と一致することがわかった(画像3枚目)。つまり、M82本体から銀河風として飛び出したガスが、銀河1個分に相当する約4万光年もの距離を飛んでいき、「帽子」のガスと現在衝突中であることを示唆している。M82の銀河風は少なくとも約4万光年離れたところまで直接影響を及ぼしているということだ。

今回の観測結果から、銀河風が銀河間空間ガスに大きな影響を与えることが判明した。研究チームでは、銀河本体から離れた場所で銀河風によって電離されたガス雲の探査を行い、さらに遠くのガス雲まで影響を及ぼしている例があるかどうかを探ることを目指している。