ダークマターの正体を説明する画期的理論

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【2013年1月30日 Apollon

ダークマターが一体何によって構成されているのか、実験で目に見えない物質をどのようにすれば検出できるのかに関するモデルが構築されている。それによると、ダークマターは重力の伝達を担う未発見の粒子「グラビトン」の超対称性パートナーとされる「グラビティーノ」からできているという。


ダークマターは目に見えず直接観測することはできないが、目に見える物質に重力的な影響を及ぼしており、恒星や銀河の動きなどから間接的に検出することができる。ダークマターがないと、宇宙に存在する銀河などの天体はばらばらになってしまう。その存在割合は、宇宙に存在する物質の約80%もある。

ノルウェー・オスロ大学の素粒子物理学のリーダー的存在であり、今回のモデルを発表した研究チームのAre Raklev准教授は、次のように話す。

「宇宙にどれほどのダークマターが存在するのかを計算できても、ダークマターの実体についてはほとんど知られていません。ダークマターを構成する粒子は、粒子1個の質量が大きいか、あるいはひじょうに膨大な個数で存在するかのどちらかのはずです。ニュートリノは、ダークマターとしての必要条件の満たしますが、1つだけ厄介な点があります。質量がはるかに小さすぎるのです」。

Raklevさんは、ダークマターがニュートリノである可能性を否定し、ダークマターがほぼグラビティーノから構成されていると断言している。物質と力の間に未知の対称性があるという「超対称性」仮説によると、電子やクォークなどすべての粒子には、それぞれに対応する重い粒子(超対称性パートナー)が存在すると考えられている。重力を伝達するとされる仮想粒子グラビトン(重力子)の超対称性パートナーが、ダークマター候補のグラビティーノだ。

グラビトンはまったく質量を持たないが、一方でグラビティーノは相当質量を持つかもしれない。もし自然界が超対称であり、グラビトンが存在するならば、グラビティーノも存在することになる。Raklevさんは「超対称性は、すべてをシンプルにしてくれます。もし、“万物の理論”(自然界に存在する4つの力=電磁気力・弱い力・強い力・重力を統一的に記述する理論)が存在するならば、つまり4つの力を統一できれば、グラビティーノは存在するはずです」と話す。

Raklevさんはさらに次のように説明している。「ビッグバンからまもなく、宇宙は粒子が衝突し合うスープ状態にありました。強い力を媒介する粒子であるグルーオンは他のグルーオンに衝突して、グラビティーノを放出していたのです。つまり、多くのグラビティーノは、まだプラズマ状態にあったビッグバン後に作られた。これが、なぜグラビティーノが存在するのかという説明です」。

しかしこれまで、永遠に存在できると考えられたグラビティーノは問題視されてきた。理論から導き出されるグラビティーノの数が多くなりすぎて、現実の宇宙の姿とは合わないと考えられたからだ。

「そのため研究者は、理論からグラビティーノを取り除こうとしてきました。しかし反対に私たちは、グラビティーノから成るダークマターと超対称性モデルとを統一する、新しい説明を見つけたのです。ダークマターが安定ではないもののひじょうに長生きならば、どのようにしてダークマターがグラビティーノから構成されているかの説明がつくのです」。

限りない永遠の命と、宇宙の寿命よりは長いが有限である150億年以上という(粒子の平均的な)寿命との間には、大きな違いがある。寿命が有限なら、グラビティーノはいつかは別の粒子に変化(崩壊)するはずだ。もしもその変化を正確に計測でとらえることができれば、その変化によってモデルの説明が可能になるという。

「幸運なことに、グラビティーノは100%安定というわけではなく、ある時点で何か別のものに変化しているのです。グラビティーノが変化を起こした兆候として、ガンマ線のシグナルが見られることが予測されます」。

現在、NASAのガンマ線天文衛星「フェルミ」の広域望遠鏡でガンマ線計測が行われており、研究グループの1つが天の川銀河中心からわずかな余剰ガンマ線を観測しているという。Raklevさんは、これらの観測から自分たちのモデルと一致する観測結果がもたらされるかもしれないと期待を寄せている。