連星同士の合体で増光した特異変光星
【2013年2月7日 VSOLJニュース(293)】
日本の天体捜索コンビ、西山さんと椛島さんが2008年に発見した変光星は、連星が共通の外層を持つことで近づき合体した際の増光であることが、カナダの研究者によるシミュレーション計算から示された。
VSOLJニュースより(293)
夜空の星の多くはひとりぼっちで光っているのではなく、2つ以上の星がお互いの重力で引き合って回りあう「連星」であることが知られています。連星と言ってもその規模はさまざまで、はくちょう座のアルビレオのようにお互い太陽系の大きさよりはるかに離れて何十万年もかけて回りあう星もあれば、お互いにほとんど星の大きさ程度しか離れていない軌道を数十分で回りあう星もあります。
しかし、お互いの距離が離れている系はともかく、とても近い系というのはどうやってできたのか、という疑問が残ります。星は星間ガスが収縮して作られることが知られていますが、お互いに自らの半径ほどしか離れていないところでそのような星が作られるものでしょうか。そんな疑問に答えてくれる仮説として、「共通外層」という現象が考えられています。
連星を構成する星のうち質量の大きな方がその進化の最終段階にさしかかると、巨星へと進化していきます。この時、相手の星の重力圏に迫るまで半径が膨らみ、星の物質は相手の星の重力圏へと流れ込んで質量移動が起こります。さらに質量の流出が進むと、物質は相手の星の重力圏の外まで及び、連星全体のまわりを物質がとりかこむような形状となります。これを共通外層と呼んでいるのです。
この共通外層は、連星から角運動量を抜き去る作用があり、それにより中心にいる連星の距離は大幅に小さくなります。こうして作られた系が、お互いの距離が極端に短い連星というわけです。もし、この時にお互いの距離がじゅうぶんに近くなった場合、連星は合体してしまいます。
ところでこの共通外層の時期にあたる星というのは実際に存在するのでしょうか。そもそもどのように見えるのでしょうか。
共通外層は、もちろん通常の星のような核融合などを起こしているわけではありません。しかし、共通外層をつくっているガスは星から噴出されたプラズマ(電子と原子核がバラバラになった状態)であるため、ある程度冷やされて再結合する(電子と原子核が再び結びつく)ことによりエネルギーを出すという形で光を出します。この温度はおよそ5000K程度とされているため、赤い巨星のように見えるだろうと考えられています。
VSOLJ No. 269(天文ニュース2011/5/27「さそり座V1309の増光は星のペアの合体によるものか?」)で紹介したさそり座V1309は、発見された当初は新星ではないかと考えられましたが、のちに星同士の合体に伴う増光ではないかと考えられるようになりました。増光前の系と考えられる天体が検出されていることから、共通外層を持つ系についての検証にはうってつけです。
このたびカナダ・アルバータ大学のイワノワ氏らが、このような共通外層を形成している系での増光についての数値計算シミュレーションを行いました。この計算によって得られた光度変化は、さそり座V1309の光度変化とよく一致していました。この増光により、太陽の0.03〜0.08倍の物質が吹き飛ばされたと考えられています。
イワノワ氏らの見積りによると、このような共通外層を持つ系は、銀河系内で年に0.024個形成されると考えられています。このことから、このような現象の発生頻度は超新星程度であり、さそり座V1309の増光はかなりまれな現象と言えます。
また、奇妙な変光星として知られるいっかくじゅう座V838や、2006年にかみのけ座の銀河M85の中で見つかったM85 OT2006-1、1988年にアンドロメダ座大銀河で見つかったM31 RVといった天体も、さそり座V1309とよく似た光度の経過を示しましたが、やはりお互いの距離がひじょうに近づいた星が共通外層を形成したことで明るくなった天体として説明が可能ということです。
このような共通外層を持つ天体はこれまで、多数発見されている近接連星の起源を説明する重要な鍵となる天体でありながら、理論的に予言されているにとどまっていました。今回、実際に観測された天体現象と理論上予言されていた天体が結びつけられることにより、近接連星の進化に関する研究に大きな寄与を与えることになりそうです。