「宇宙のサッカーボール」が作られる環境
【2013年3月6日 国立天文台】
炭素原子がサッカーボール状に結びついた「C60 フラーレン」がおおいぬ座の惑星状星雲で見つかった。星雲の観測から、C60の生成環境の解明についても大きく前進している。
台湾中央研究院の大塚雅昭さんらの国際研究チームが、おおいぬ座の方向6800光年彼方の惑星状星雲「M1-11」の赤外線観測データから、「C60 フラーレン」と呼ばれる炭素質のダスト(塵)を検出した。その総量は地球100個分もの質量と見積もられる。
「どんな環境で作られるか」の解明に大きな手がかり
C60は、60個の炭素原子がサッカーボールのような中空の球構造に配列した物質だ。宇宙空間で初めて見つかった2010年以来、およそ20天体で検出されているが、その形成される量や環境についてはまだはっきりわかっていない。
大塚さんらがすばる望遠鏡と岡山天体物理観測所、そして赤外線天文衛星「あかり」の観測をもとに調べたところ、惑星状星雲「M1-11」は太陽の1.5倍の質量の恒星が惑星状星雲に進化したばかり(わずか1000年ほど)のものらしいということや、星雲に含まれる元素の割合などがわかった。これは、これまでにC60が見つかっている他の惑星状星雲とよく似ている。研究チームは、C60は炭素系ダストが豊富で若い惑星状星雲に存在しているようだということを確信した。
惑星状星雲は、太陽の1〜8倍程度の重さの星がその末期に周囲に放出する物質が光って見える天体である。星の活動で作られて放出された炭素でできたC60のような炭素質ダストが宇宙空間に散らばり、次世代の星の材料となる。ダストの形成を詳しく調べることは、星の進化や宇宙の物質進化を理解するうえで重要なのだ。
今後は「どのように作られるか」を検証
どのような天体でC60が形成されるのかがわかった今、今後はその形成シナリオを解明することになる。
有力な説によれば、惑星状星雲の中心星からの紫外線と強い恒星風により、非晶質炭素の集合体から水素がはがされて残った炭素同士が結合したものがC60だという。これが正しければ、C60は水素がついた非晶質炭素ダストなどと同じような場所に存在しているはずだ。
これを検証するため、研究チームはすばる望遠鏡を用いて、C60が惑星状星雲の中でどのように分布しているかを調査している。