アイソン彗星のアンモニアから太陽系誕生の記憶をたどる
【2014年2月20日 すばる望遠鏡】
すばる望遠鏡を用いたアイソン彗星(C/2012 S1)の分光観測から、彗星に含まれるアンモニア分子の由来を知る手がかりとなる物質が検出された。アンモニアが形成された場所や太陽系形成期の温度環境の研究につながる成果である。
彗星は太陽系のはるか外縁からやってくる氷と塵の小天体であり、その観測と分析から、太陽系誕生時の母体である分子雲についてうかがい知ることができる。2013年11月に太陽に最接近し崩壊、消滅したアイソン彗星(C/2012 S1)も、そうした太陽系の記憶を留める“タイムカプセル”として大規模な観測が行われた。
京都産業大学の新中善晴(しんなかよしはる)さんと河北秀世(かわきたひでよ)さんらの研究チームは、すばる望遠鏡を用いてアイソン彗星の核付近の分光観測を行い、窒素同位体15Nを含むアミノ・ラジカル(NH2:注)を検出した(画像1枚目)。そして、アイソン彗星に含まれるアンモニア分子中の14Nに対する15Nの割合を求めることに成功した。
同じ元素でも中性子の数の違いによって質量が違うものを「同位体」と呼び、同位体同士の存在比(同位体比)を比較すると、その由来や形成環境を探ることができる(画像2枚目)。
今回の結果(同位体比)を、2013年にヨーロッパの研究チームが彗星12個分のデータをあわせて検出したアミノ・ラジカルからの値や、これまで彗星で観測されたシアン・ラジカル(CN)とシアン化水素(HCN)のものと比べることで、彗星に取り込まれた窒素元素を含む分子はどれも似た環境下で作られたことが示唆されている。
一方、惑星系の母体となる分子雲との同位体比の比較結果は、HCNでは似た値であったがアンモニア分子は異なる値を示すことが明らかになった。彗星のアンモニア分子が分子雲のガス中ではなく低温塵の表面、それも従来考えられていたよりも低温の環境(およそ摂氏マイナス260度)で形成された可能性が示されている。
注:「アミノ・ラジカル」 彗星のコマ(大気)中のアンモニア分子(NH3)が太陽の紫外線で壊れて変化したもの。アンモニア分子よりも観測しやすいため、彗星のアンモニア分子について知る間接的な手がかりとなる。