レモン型マグネターの内部磁場強度は1兆テスラ
【2014年6月4日 東京大学】
超強力な磁場を持つマグネターの観測で、同天体の回転に伴うX線パルスの到着時間が進み遅れする現象が発見された。このことから、マグネターがわずかにレモン型に変形していることが示唆され、さらにその変形量を説明するのに必要な内部磁場強度が1兆テスラであると世界で初めて推定された。
中性子星は、太陽程度の質量を持ちながら半径はわずか10kmと、宇宙でもっとも高密度な天体である。その表面における重力は地球の重力の2000億倍にも達し、ブラックホールを除くと宇宙最強だ。また磁場の強さも、一般に1億テスラ(T)にも達する。中性子星の多くは、回転につれ周期的な電波やX線を出す「パルサー」として観測されており、超新星残骸「かに星雲」の中心にある「かにパルサー」など天の川銀河内で約2000個が知られている。また、一般に強い磁場をもつ中性子星の中でも、特に磁場の強いものは「マグネター」と呼ばれている。
東京大学の牧島一夫さんらと理化学研究所の研究グループは、X線天文衛星「すざく」を使ってカシオペヤ座の方向にあるマグネター「4U 0142+61」を観測した。その結果、低エネルギーのX線(軟X線)では中性子星の回転に伴うパルスが一定周期(8.69秒)で検出できたのに対して、高エネルギーX線(硬X線)ではパルスの到着時刻が約15時間かけて0.7秒ほど進み遅れしていることを発見した。
この発見について研究グループでは、同天体が球形から0.01%ほど対称軸に沿って細長いレモンのような形に変形したために天体の対称軸が首振り運動(自由歳差運動)をする結果であると結論づけた。中性子星内部に隠れているドーナツ状の磁場(トロイダル磁場)はレモン型の変形を引き起こすことが知られており、変形量を説明するのに必要な内部磁場の推定強度は1兆テスラと、考えうる極限に近い値であった。
中性子星の内部に潜む磁場が観測から推定されたのは、これが世界初である。マグネターが極めて強いトロイダル磁場を持つことは理論的に提唱されていたが、従来それを観測から見極める手段はなかった。今回の成果は、この難題に初めて突破口を開くものである。研究グループでは今後、「すざく」などで観測された他のマグネターで、同様の自由歳差運動が起こっている可能性を探る計画だ。