超新星爆発での元素合成シナリオを支持、r過程元素の起源解明へ前進

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理化学研究所などの研究チームが、中性子を大量に取り込んだ原子核110個を人工的に生成し、その寿命(半減期)を高精度で測定することに成功した。爆発的天体現象で金やウランなどの重い元素が一気に作られる「r過程」を解明する重要な鍵となる。

【2015年5月14日 理化学研究所国立天文台

自然界に安定して存在する元素で鉄より重いもののうち約半数は、超新星爆発で合成されると考えられている。高温高密度の環境で原子核に取り込まれた中性子がベータ崩壊して陽子に変わり、金やウランなどの重元素となる。急激に進むこのプロセスは、rapid(高速)の頭文字をとって「r過程」と呼ばれている。

超新星爆発からさまざまな重元素が形成・放出されるイメージ
超新星爆発からさまざまな重元素が形成・放出されるイメージ(提供:Supernova illustration: Akihiro Ikeshita/Particle CG: Naotsugu Mikami (NAOJ))

r過程は、超新星爆発ではなく中性子星合体で起こるという説もある。その時間スケールや重元素の生成量を理解するためには原子核の寿命(半減期)を知ることが重要だが、r過程で生成される中性子過剰な原子核を人工的に大量生成することは難しく、寿命の測定は困難であった。

そこで理化学研究所の研究チームを中心とするEURICA(ユーリカ)国際共同研究グループでは、重イオン加速器施設「RIビームファクトリー」(埼玉県和光市)を利用してルビジウム(原子番号37)からスズ(原子番号50)までの中性子過剰な原子核を生成し、原子核110種の寿命の測定に成功した。そのうち40個は世界で初めて寿命が測定されたものだ。この結果から、特にr過程による重元素の合成過程において鍵を握る銀やカドミウムなどは、従来の標準理論予想より30~35%程度速く崩壊することが明らかになっている。

今回得られた高精度のデータをr過程の理論計算に取り込み、実際に観測される太陽系や金属欠乏星(重元素が少ない古い星)の組成比と比較したところ、超新星爆発における元素合成シナリオと矛盾しない結果が得られた。

r過程で生成される重元素の存在比には普遍性があると考えられており、今回の測定でもそれが示された元素がある一方で、一部の元素ではr過程の時間スケールによって生成量が大きく変わることもわかった。重元素存在比の普遍性が当てはまらないケースがあることを示す最初の結果であり、今後の観測での検証が待たれる。

今回の測定やEURICA実験で得られた他のデータは、r過程のシナリオとそのメカニズムを特定する上で重要なもので、核構造や元素合成の解明に関する多くの成果が得られると期待される。

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