優れたトータルバランス
ラプトルを企画したスターライトコーポレーション社の大沼崇氏は、「通販やホームセンターなどで販売されている安価な天体望遠鏡の多くは、残念ながら満足な像を見せてくれない」と問題点を指摘する。外観こそ望遠鏡の形をしているが、光学系だけでなく、多くの部分が粗悪なパーツで構成され、まともな像を結ばないどころか、目的の天体に鏡筒を向けることも困難で、さらに簡単に壊れてしまうことさえある。このような現状を打破すべく「安価でも質の良いものを供給する」というコンセプトからラプトルが誕生した。こうしたことを踏まえて試用してみた。
まず、組み立てた状態でも総重量が1.2kgで、きわめて軽量である。誰でも簡単に持ち運びができる。フリーストップの架台の操作性も軽快だ。もちろん、プラスチックパーツを多用した架台ならではの剛性不足も感じられるが、口径50mmの望遠鏡の実用的な倍率を考えれば必要充分といえる。 「のぞき穴ファインダー」もかなり実用的だ。鏡筒と穴の中心までの距離が、わずか15mmほどなので、鏡筒後部からやや離れてのぞき込まないといけないが、それでも月や明るい星なら30倍の視野に問題なく導入できた。慣れれば子どもでもいろいろな天体を見つけ出すことが可能だろう。
実際に月や土星、火星、冬の大型の星雲星団などを覗いてみたが、価格を考えれば充分な像質。もちろん、50mmという口径で楽しめる天体は限られ、より口径の大きな望遠鏡よりも像質が劣るのは明白だ。しかし、入門者にとって大切なのは、自分で天体を視野に導入したり、アイピースを交換して倍率を変えて、天体を眺める楽しさを体得することだ。
天体望遠鏡は星を見るための「道具」である。今まで、上級者やマニアが初心者に天体望遠鏡を勧めるときは、「安いものを買ってはいけない」というのが常套句だった。安価なものには「まがいもの」や「おもちゃ」が多いということを知ってのことだ。しかし、明確なコンセプトを持ち、生産現場でのクオリティコントロールを徹底すれば、安価なものでもおもちゃを超えたバランスの良い「道具」が生産できる。
この数十年、天体望遠鏡はメーカーがマニアとともに成長し、技術を成熟させてきた。メディアも最先端の機材ばかりを取り上げてきた。その反面、初心者向けの製品に対して、あまり力を入れてこなかったことも事実だろう。そういった反省の上に企画されたのがビクセンのポルタシリーズや、トミーテックのミニボーグシリーズだ。しかし、ラプトルの登場は、さらなるコストダウンによって市場の広がりの余地のあることを気づかせてくれる。初めて望遠鏡を買う人にとっては価格も重要な性能だと言える。願わくば、このラプトルを真の「入門」機として、購入者が次のステップに進んでほしいものだ。