IAU、宇宙膨張の法則名として「ハッブル・ルメートルの法則」を推奨
【2018年11月1日 国際天文学連合】
1929年、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブル(Edwin Powell Hubble; 1889-1953)は、銀河が遠ざかる速度(後退速度)は銀河までの距離に比例するという研究成果を発表した。「ハッブルの法則」と呼ばれてきたこの成果は、天文学における最も重要で有名な法則の一つである。
実はハッブルの2年前に同様の内容を発表した人物がいた。ベルギーの天文学者ジョルジュ・ルメートル(Georges-Henri Lemaître; 1894-1966)だ。ルメートルの論文は無名の仏語誌『ブリュッセル科学会年報』に掲載されたため、その成果は広く知られることなく、長く歴史に埋もれることとなった。
近年になってルメートルの研究経緯が詳しくわかり、宇宙膨張に関する理論研究に対するルメートルの貢献を認めようという動きがなされるようになった。そこで国際天文学連合(IAU)は今年8月に、オーストリア・ウィーンで開催されたIAU総会の場で、「ハッブルの法則」にルメートルの名前を追加することを提案した。
その後、IAUの会員約1万1000人を対象に電子投票が実施され、有効票約4000票のうち8割弱が新名称「ハッブル・ルメートルの法則」への変更を支持したことから、IAUは法則の新名称として「ハッブル・ルメートルの法則」を使用することを推奨すると発表した。
「名称を決めるのに投票という方法はなじまない」「『ルメートル・ハッブルの法則』ではないのか」といった意見もないわけではないが、今後は学術書や科学雑誌等では新表記が用いられていくこととなるだろう。
〈参照〉
- IAU:IAU members vote to recommend renaming the Hubble law as the Hubble-Lemaitre Law
- アストロアーツ天文ニュース(2011/11/14):歴史に埋もれかけた、宇宙膨張の真の発見者
- 月刊「星ナビ」:2014年12月号「天文学の20世紀 近代天文学の開拓者たち 第7回「ジョルジュ・ルメートル」」
関連記事
- 2023/08/25 「ものさし」を組み合わせて宇宙膨張の過去と未来を明らかに
- 2023/05/09 宇宙背景放射からダークマター分布を調査、「宇宙論の危機」回避なるか
- 2021/05/21 超新星で探る宇宙膨張の歴史
- 2020/04/15 宇宙論の大前提がゆらぐ?宇宙膨張が方向によって異なる可能性
- 2020/01/16 重力レンズ効果を用いた新手法で宇宙膨張率を測定
- 2019/02/04 宇宙膨張が標準理論と不一致?クエーサーの観測から示唆
- 2017/01/30 重力レンズが裏付け、予想より速い宇宙の膨張
- 2016/06/06 予測よりも速い宇宙の膨張速度
- 2014/11/02 星ナビ12月号は「はやぶさ2」と「ほうおう座流星群」
- 2012/07/06 恒星フレアで吹き飛ばされる惑星の大気
- 2012/04/06 宇宙と生命の神秘を知る 22日に東大公開講演会
- 2012/02/17 欧州の宇宙補給機、5号愛称は「ジョルジュ・ルメートル」
- 2011/11/14 歴史に埋もれかけた、宇宙膨張の真の発見者
- 2011/07/15 ハッブル宇宙望遠鏡、100万回の科学観測を達成
- 2011/05/02 ハッブル宇宙望遠鏡が捉えた小天体同士の衝突
- 2011/03/15 宇宙の膨張速度を決めるハッブル定数が従来より精確に
- 2011/02/10 ブラックホール製 銀河のペアリング
- 2010/04/02 暗黒エネルギーによる宇宙膨張の加速を確認
- 2008/04/15 ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、記録破りのガンマ線バースト
- 2007/08/10 ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、はくちょう座の網状星雲