重力レンズが裏付け、予想より速い宇宙の膨張

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重力レンズ効果を利用して宇宙の膨張率を表すハッブル定数の値が調べられ、近傍宇宙の観測から求めた定数では従来の値との一致がみられたが、衛星「プランク」による初期宇宙観測に基づく値とは一致しないことが確かめられた。

【2017年1月30日 カブリIPMUHubble Space Telescopeすばる望遠鏡

ある天体の重力がレンズのような役割を果たして、より遠方の天体からの光を曲げたり増幅したりする現象は「重力レンズ効果」として知られている。たとえば、遠方のクエーサーの手前に大質量の銀河があると銀河がレンズ源として働き、背景のクエーサーの像が複数に分かれたりアーク状に引き伸ばされたりする。

一般にレンズとなる銀河は完全に球形の歪みを生み出すことはできず、またレンズ銀河とクエーサーとは完全に一直線には並んではいないため、背景のクエーサーの複数の像から届く光はそれぞれわずかに異なる距離の経路を辿る。そしてクエーサーの輝きが時間によって変化すると、異なる像が異なる時刻に明滅する様子を見ることになり、その時間の遅れは光がやってくる経路の長さに依存する。

この遅れは宇宙の膨張率を表す「ハッブル定数」の値と直接的に関係しており、複数の像の間での時間的遅れを正確に測ることで、高い精度でハッブル定数を確かめることができる。

独・マックス・プランク物理学研究所等のSherry Suyuさんたちの国際研究チーム「H0LiCOW(ホーリー・カウ)」は、ハッブル宇宙望遠鏡や米・ハワイのすばる望遠鏡など複数の望遠鏡を用いて、強い重力レンズ効果を引き起こしている5つの銀河を観測し、ハッブル定数を調べた。その結果、近傍宇宙の観測から得られたハッブル定数の値は、これまでに超新星やケフェイド変光星の観測から得られている値と極めてよく一致した。

重力レンズ効果を受けたクエーサー像と前景の銀河
重力レンズ効果を受けたクエーサー像と前景の銀河(提供:NASA, ESA, S. Suyu (Max Planck Institute for Astrophysics), M. W. Auger (University of Cambridge))

一方でその値は、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の宇宙背景放射観測衛星「プランク」による、初期宇宙の宇宙背景放射の観測から得られた値とは一致しなかった。プランクで確かめられたハッブル定数の値は、現在の標準的な宇宙論モデルから期待される値とよく合っているが、今回のような局所宇宙の様々な観測から求めた値とは一致していない。今回の結果は、標準的なモデルで期待される値より速く宇宙が膨張していることを予測するものとなっている。

「高い精度を持った異なる方法で、宇宙の膨張率を測ろうという取り組みが始まっています。現在の我々の宇宙に対する理解を超える新しい物理がこの矛盾から示される可能性があります」(Suyuさん)。

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