遠方宇宙に多数の活動的な大質量ブラックホールが存在
【2023年12月12日 東京大学宇宙線研究所】
大半の銀河の中心には、太陽質量の100万倍から100億倍にも達する大質量ブラックホールが存在するが、それらがどの時代にどのように形成されたのかはよくわかっていない。大質量ブラックホールの歴史を考えるうえで、形成間もないと考えられる昔の宇宙、つまり遠方の宇宙に存在する大質量ブラックホールは重要な研究対象となる。
従来の大質量ブラックホールの探査では、活動的なブラックホールが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝く「クエーサー」を探す方法が一般的だった。すばる望遠鏡などの観測により、これまで120~130億年前の遠方宇宙で多くのクエーサーが見つかってきたが、その数は同時代に存在する銀河の1000分の1以下しかなく、遠方宇宙ではとても珍しい天体と認識されてきた。
東京大学宇宙線研究所の播金優一さんたちの研究チームは、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の近赤外分光器「NIRSpec」で得られた遠方銀河の観測データを解析し、120~130億年前の10個の銀河から、活動的な大質量ブラックホールの存在を示す特徴的な幅広い水素の輝線が出ていることを発見した。10個という数は、従来のクエーサーを使った研究から予想される数の50倍に当たる。
「観測データの中から大質量ブラックホールの存在を示す幅広い水素の輝線を発見した時は、本当に驚きました。これまでの研究から、JWSTの狭い観測範囲では、大質量ブラックホールは1個も見つからないだろうと思っていたからです。最初は何かの間違いかと思いましたが、JWSTの感度があまりにも良く、非常に明確に幅広い水素の輝線が見えているので、これは本物だろうと確信しました」(播金さん)。
「なぜこんなに多くの活動的な大質量ブラックホールが遠方宇宙に既に存在しているのか、その理由はまだ不明ですが、宇宙初期における大質量ブラックホールの形成を理解する手がかりになると考えています」(播金さん)。
また、研究チームはスペクトルの情報から大質量ブラックホールの質量を求め、遠方宇宙においてブラックホールが急成長したことを示唆する結果を得た。「今回発見したブラックホールは、質量が太陽の100万倍から1億倍です。クエーサーの持つブラックホールに比べて100倍ほど軽く、より形成初期に近い天体であることがわかりました。一方で現在の宇宙に存在する同じような銀河が持つ大質量ブラックホールと比べると10倍から100倍ほど質量が大きく、遠方宇宙でブラックホールが急成長している様子を見ている可能性があります」(国立天文台 中島王彦さん)。
今回見つかった大質量ブラックホールの画像の多くには、大質量ブラックホールからの光と思われる小さくコンパクトな光だけではなく、ブラックホールが存在する母銀河から広がった光も見えている。黄色いものや青白いものなど色も様々だ。「JWSTの圧倒的な感度と解像度のおかげで、母銀河の光も検出することに成功しました。画像に見られるような多様な銀河の色や形は、活動的な大質量ブラックホールが様々な種類の遠方銀河に普遍的に存在することを示しているのかもしれません」(国立天文台 張也弛さん)。
〈参照〉
- 東京大学宇宙線研究所:ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、遠方宇宙に大量の巨大ブラックホールを発見
- The Astrophysical Journal:A JWST/NIRSpec First Census of Broad-line AGNs at z = 4–7: Detection of 10 Faint AGNs with M(_BH) ∼ 10(^6)–10(^8)M⊙ and Their Host Galaxy Properties 論文
〈関連リンク〉
- NASA - James Webb Space Telescope:
- STScI:
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