合体銀河の中心で暴れ出した怪物ブラックホールの風を観測

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日本のX線天文衛星「XRISM」の観測で、爆発的星形成の段階にある合体銀河で巨大ブラックホールから超高速の風が吹き出す様子が精密にとらえられた。

【2026年3月12日 JAXA XRISM

銀河の中心には太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ「超大質量ブラックホール」があり、その一部は周囲の物質を活発に飲み込んで明るく輝く「活動銀河核(AGN)」となっている。特に活発なAGNは「クエーサー」と呼ばれ、銀河全体をしのぐほど明るい。

大きな銀河の多くは過去に銀河同士の合体を経験していて、合体中の銀河ではしばしば爆発的な星形成が引き起こされる。合体銀河に含まれる大量のガスが超大質量ブラックホールに流入すると、ブラックホールはAGNとなり、このAGNのエネルギーが星形成を抑制するとクエーサーの状態になる。時間が経つとブラックホールの活動は終息し、星形成がほぼ止まった静かな楕円銀河になると考えられている。

銀河合体による進化過程の模式図
銀河合体によって引き起こされる銀河の進化過程を示した模式図。合体の後期段階になると銀河全体で爆発的な星形成が進むとともに、中心の超大質量ブラックホールが活発化して活動銀河核として輝く。やがて、活動銀河核の影響で銀河の星形成が抑制され、クエーサーの段階を経て、静かな老成期の銀河へと進化すると考えられている(提供:JAXA)

一部のクエーサーでは、光速の数十%にも達する「超高速アウトフロー」という風がブラックホールのすぐそばから吹き出している。この風は銀河内部のガスを加熱して吹き飛ばし、新たな星形成をさまたげるなど、銀河自体の進化に大きな影響を与えると考えられているが、この風が銀河の歴史の中でいつごろ吹き始め、どの時点から銀河の進化に影響を与えるのかはよくわかっていない。

東北大学の野田博文さんたちの研究チームは、うさぎ座の方向約6億光年の距離にある銀河「IRAS 05189-2524」(以下、IRAS 05189)を2024年8月にX線分光撮像衛星「XRISM」を用いて観測した。この銀河は合体銀河で、爆発的な星形成がみられ、活動銀河核も存在している。

IRAS 05189-2524
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた「IRAS 05189-2524」(提供:ESA/Hubble & NASA

野田さんたちは非常に高いエネルギー分解能をもつXRISMの軟X線分光装置「Resolve」によって、これまでとらえられていなかったIRAS 05189の複雑なスペクトル構造を検出した。これは、超大質量ブラックホールの近傍から出たX線が、超高速アウトフローのプラズマに含まれる鉄と相互作用して生じた吸収線や輝線だと考えられる。

このスペクトルを詳しく解析した結果、ブラックホールの近傍から弾丸状の超高速アウトフローが四方八方に放出されていて、そのうち少なくとも3つの成分が、光速の約7.5%、10%、14%という視線速度で地球に近づく方向に運動していることが明らかになった。

IRAS 05189-2524の想像図、X線スペクトル
(左・右上)IRAS 05189-2524の想像図。爆発的に星が誕生している合体銀河の中心に大質量ブラックホールが存在する。(右下)Resolveで得られたX線スペクトル(横軸のエネルギーは宇宙膨張による赤方偏移を補正した値)。ブラックホールの近傍から放出された超高速アウトフローに鉄イオンが含まれており、光速の約7.5%(zone 1)、10%(zone 2)、14%(zone 3)の速度に対応する鉄イオンの吸収線が重なり合っている。画像クリックで表示拡大(提供:JAXA、以下同)

また、個々の「弾丸」が運ぶエネルギーの大きさを見積もると、これらの超高速アウトフローの総エネルギーは、銀河全体で観測される分子ガスの運動よりも100倍以上大きいことがわかった。これは合体銀河で起こっている爆発的な星形成活動を抑えるのに十分なほど大きく、超高速アウトフローが銀河の進化に強く影響を及ぼす可能性を示すものだ。

さらに、XRISMの軟X線撮像装置「Xtend」を使って、IRAS 05189の超大質量ブラックホールの近傍から出る高エネルギーと低エネルギーのX線の強度比を詳細に調べたところ、このブラックホールが理論的な限界に近いペースで大量の物質を飲み込んでいることもわかった。これらの事実から、ブラックホールに向かう猛烈な物質の流れが強力な弾丸状の超高速アウトフローを生み出している可能性が高いと考えられる。

IRAS 05189-2524の広帯域X線スペクトル
(上)Xtendで得られた広いエネルギー範囲のX線スペクトル。約1.5keV未満の成分は主に合体銀河全体から出ているX線、それ以上のエネルギー成分は銀河中心の超大質量ブラックホール近傍から出たX線による。(下)上パネルの黄色の範囲に対応するResolveでのX線スペクトル(上図右下と同じもの)。ブラックホール周囲に広く分布する超高速アウトフローからの幅の広い輝線もとらえられている。画像クリックで表示拡大

今回、銀河合体によって爆発的な星形成が進行し、クエーサーへと進化していく手前の段階で、銀河全体の進化に強く影響するような強い超高速アウトフローがブラックホールのそばから吹いている証拠が直接とらえられた。これはまさに、目覚めたばかりの「モンスター」が銀河全体にとどろく「雄叫び」を上げているようだと野田さんたちは形容している。IRAS 05189では今後、ブラックホールの活動がさらに活発になって星形成が抑制され、クエーサーの段階に移行していくと予想される。

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