ブラックホールと暗黒物質が引き起こす銀河団の「嵐」

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X線天文衛星「XRISM」の観測で、銀河団の内部で暗黒物質と巨大ブラックホールがそれぞれ異なるスケールのガスの「嵐」を引き起こしている様子が精密にとらえられた。

【2026年2月24日 JAXA宇宙科学研究所

銀河団は数百個の銀河が直径数百万光年にわたって集団を作っている天体だ。銀河団は他の銀河や銀河団と衝突・合体して成長する一方で、中心の巨大銀河が持つ超大質量ブラックホールによって銀河団ガスが加熱される、といった影響も受ける。こうした一つ一つの過程が銀河団ガスの運動にどんな影響を及ぼすのかについては、これまでほとんどわかっていなかった。

約2億4000万光年の距離に位置するペルセウス座銀河団は1000個以上の銀河の集まりで、X線で最も明るい銀河団として知られる。この銀河団の内部では、中心の銀河「NGC 1275」の超大質量ブラックホールの影響で、銀河団ガスが嵐のような複雑な運動をしていると予想されてきた。

ペルセウス座銀河団
ペルセウス座銀河団。画面左のとくに大きな2個の銀河が、NGC 1275(左)とNGC 1272(右)(撮影:バークレーさん

2016年に打ち上げられた日本のX線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」は、ペルセウス座銀河団の中心部約20万光年の領域で激しいガスの運動が存在する兆候を初めてとらえたが、打ち上げから約40日後にトラブルで機体が失われ、詳細な観測はできていなかった。

今回、「ひとみ」の後継機であるX線分光撮像衛星「XRISM」は、対象範囲をNGC 1275の周囲80万光年まで拡大し、ペルセウス座銀河団のガスの速度地図を描き出した。その結果、地球から見た銀河団ガスの視線速度の幅(速度分散)が、銀河団中心の超大質量ブラックホールに最も近い領域では秒速200km、その外側では秒速80km、さらにその外側では再び秒速200kmという特徴的なV字型のパターンを持つことが明らかになった。

シミュレーションとの比較等から、このV字型の速度分布のうち外側でみられる高速のガス運動は、ペルセウス座銀河団に別の銀河や銀河団が落ち込んで生じた大きなスケールの「嵐」のようなものだと考えられる。これは、銀河団が今もみずからの暗黒物質の重力で天体を引き寄せて成長し続けている証拠だ。

銀河団中心部のガスの動き
XRISMがとらえたペルセウス座銀河団中心部のガスの動き。NASAのX線観測衛星「チャンドラ」の画像にXRISMの観測領域を重ねたもの(四角がXRISMの視野)。色はガスの速度を表し、明るい部分ほど高速であることを示す(提供:JAXA宇宙科学研究所、以下同)

一方、V字型速度分布の内側でみられる高速のガス運動は、銀河団の中心で超大質量ブラックホールが小さく激しい「嵐」を引き起こしている証拠と考えられる。超大質量ブラックホールは周囲から引き寄せたガスの一部を強いジェットや風として放出し、周囲の銀河団ガスにエネルギーを注ぎ込む。今回のXRISMの観測結果は、巨大ブラックホールが銀河団中心部のガスをかき混ぜて小さな嵐を生み出している様子を初めて直接とらえたものだ。

こうした巨大ブラックホールからのエネルギー供給は、宇宙の星形成の歴史を理解する上で重要な手がかりとなる。宇宙の恒星の多くは、星形成が最も活発だった約100億年前に誕生している。この時代は「宇宙の正午(cosmic noon)」と呼ばれ、その後は新しい星の誕生は次第に少なくなった。星形成には材料となる冷たいガスが必要だが、超大質量ブラックホールにガスが加熱されて高温になると星は生まれにくくなる。超大質量ブラックホールは銀河自体の進化にも影響を及ぼしている可能性があるのだ。

今回の成果は、暗黒物質や超大質量ブラックホールが天体の進化に果たしている役割をを解き明かすための新たなヒントになるだろう。

ペルセウス座銀河団中心部のスペクトル
XRISMの軟X線分光装置「Resolve」で得られたペルセウス座銀河団中心部のX線スペクトル。Resolveのきわめて高い波長分解能によって、電子が2個残った鉄イオン(ヘリウム状鉄)が出すX線が4個の輝線に分裂している様子がとらえられ、その分析からガスの運動速度が明らかになった

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