X線で調べる超大質量ブラックホール近傍の化学組成

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銀河中心のブラックホール周辺領域のX線観測から元素組成が測定され、太陽の20倍以上の質量を持つ星の大半が超新星爆発を起こさずにブラックホールへ崩壊するシナリオと整合する結果が得られた。

【2026年4月14日 JAXA宇宙科学研究所

銀河の中心に存在する超大質量ブラックホールの成長と、周囲の環境との関わりを知るには、超大質量ブラックホールとその周辺構造である「銀河核」にどの元素がどれくらい含まれているかという情報が不可欠だ。水素とヘリウムを除く元素の大半は恒星の内部で作られ、超新星爆発によってばら撒かれるが、その量は星の質量に強く依存する。つまり、元素組成を調べれば、銀河中心部で過去にどのような星が生まれ、どのように死んでいったかという「銀河の履歴書」を読み解くことができる。

しかし、銀河中心はガスや塵が非常に濃く、ほとんどの場合可視光線では見通すことができない。また、可視光線で観測される放射は複雑で、解釈に不確かさが伴う。一方、X線は物質との相互作用の物理が単純で透過力が強く、その強度測定から元素組成を精密に調べることができる。とくに、ブラックホールの近傍から出たX線が周辺の物質に含まれる鉄原子に吸収された後に特有のエネルギーのX線となって再放射される鉄の「蛍光X線」は、ブラックホール周辺の複雑な構造やガス分布、化学組成を推定する強力なツールとなる。

X線分光撮像衛星「XRISM」の国際共同研究チームは、地球に最も近い活動銀河の一つであるコンパス座銀河(約1400万光年)の中心部を軟X線分光装置「Resolve」で集中的に観測した。Resolveはエネルギー分解能が非常に高く、蛍光X線を高精度で測定することができる。

コンパス座銀河
(背景)コンパス座銀河、(枠内)銀河中心部の想像図。超大質量ブラックホール(中心の黒丸)付近の高温コロナから放出された連続X線(白色)が周囲のトーラスに当たり、様々な元素からの蛍光X線が発生している(提供:(背景)Image: NASA, ESA, CSA, Enrique Lopez-Rodriguez (University of South Carolina), Deepashri Thatte (STScI); Image Processing: Alyssa Pagan (STScI); Acknowledgment: NSF's NOIRLab, CTIO、(枠内)JAXA)

その結果、従来の観測ではぼやけて見えていた、鉄やニッケル、アルゴン、カルシウムなど様々な元素の蛍光X線が、一本一本くっきりと分離してとらえられた。この情報からブラックホール周辺のガスの温度や場所、詳しい元素の割合を計算することが可能となり、鉄の蛍光X線を放つ物質の在処や独特な元素の割合が明らかになった。

コンパス座銀河の中心核のX線エネルギースペクトル
Resolveが取得したコンパス座銀河の中心核のX線エネルギースペクトル。様々な元素の蛍光X線が見られる。(上段)鉄輝線付近の拡大図。メインピークの左側にある広がった成分はコンプトンショルダーと呼ばれ、一度放出された鉄蛍光X線が別の場所にある電子により散乱され生じている。画像クリックで表示拡大(提供:The XRISM Collaboration 2026を一部改変、以下同))

まず、鉄の蛍光X線の形状分析から、この光を放っている物質がブラックホールから約0.08光年(約7400億km)以上離れた、冷たく重元素が豊富なドーナツ状の「トーラス」にあることがわかった。観測結果が、超大質量ブラックホールに飲み込まれる直前のガスを直接観察したものであることを意味している。

また、太陽系近傍と比較して、アルゴンやカルシウムが鉄に比べて少なく、ニッケルは鉄に対して多いという特異な元素組成が明らかになった。理論モデルとの比較によると、こうした組成パターンは「比較的最近の星形成によって供給されたガス」のものであり、「重元素の多い環境では、太陽の約20倍以上の質量を持つ星の多くが、爆発せずにそのまま恒星質量ブラックホールへと崩壊する」と考えると自然に説明できることが示された。

組成比
コンパス座銀河中心のアルゴン、カルシウム、クロム、マンガン、ニッケルの鉄に対する組成比(白丸)とモデル計算結果。最もデータをよく再現する理論モデル(太い緑)は白色矮星を起源とする超新星の寄与(青)と重力崩壊型超新星の寄与(オレンジ)の組み合わせで表現される。太陽の20倍以上の星も爆発すると仮定した場合(細い緑)は観測と合わない

今回の成果は、超大質量ブラックホールと銀河が共に進化する現場で、最近の爆発的星形成によって作られたガスが絶えず活動銀河核に供給され続けているという描像を確立するものとなる。また、重い星が超新星爆発を起こさずに恒星質量ブラックホールになるという、理論から予想されていた現象の強力な証拠を元素組成観測により初めて示し、ブラックホール形成過程を理解するための大きな一歩ともなった。

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