M87のジェットに横波を発見

このエントリーをはてなブックマークに追加
巨大楕円銀河M87の中心にある超大質量ブラックホールから噴き出すジェットに見られる周期的な揺らぎは、局所的な変動ではなく、ジェットの下流へ向かって約1年の周期で伝わる「横波」として振る舞っていることが明らかになった。

【2026年4月14日 国立天文台水沢VLBI観測所

地球から約5500万光年の距離にあるおとめ座の楕円銀河M87の中心には、太陽の約65億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在する。イベント・ホライズン・テレスコープによってブラックホールの「影」(ブラックホールシャドウ)が初めて撮影されたことでも有名なこのブラックホールからは、細く長い相対論的ジェットが噴き出し、すぐ近くから数キロパーセクの距離にまで伸びている。

M87から噴出するジェットと、ブラックホールシャドウ
(左)M87中心の超大質量ブラックホールから噴出するジェット、(右)超大質量ブラックホールが作る影(ブラックホールシャドウ)(提供:(左)NASA, ESA and the Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Cote (Herzberg Institute of Astrophysics) and E. Baltz (Stanford University)、(右)EHT Collaboration

これまでの観測で、M87のジェットの縁に沿って約1年周期の微小な横方向の揺れが存在することが示されていた。その揺れがどのように空間的・時間的に変化しているのかを詳しく調べるため、韓国天文研究院の盧炫旭さんたちの研究チームは、日本の国立天文台の「VERA」4局と韓国VLBIネットワーク(KVN)の3局を組み合わせた「KaVAアレイ」を用いて、2年半で24回のモニタリング観測を行った。

KaVA
日韓合同VLBI観測網(The KVN and VERA Array、KaVA)。下は本観測に参加した各観測局の電波望遠鏡。左からKVNのヨンセイ局(ソウル)、ウルサン局、タムナ局(済州)、VERA水沢局、入来局、小笠原局、石垣局(提供:国立天文台/韓国天文研究院)

その結果、横方向の揺れが単なる局所的な変動ではなく、ジェットの下流へ向かって伝わる「横波」として振る舞っていることが明らかになった。振動の周期は約0.94年でほぼ一定で、位相は距離とともに連続的に変化し、位相の進み方から横波の波長が約2.4~2.6光年と求められた。

この振動を単純な正弦波モデルで表すと、波の見かけの伝播速度は光速の約2.7~2.9倍に達するが、これは相対論的効果によって生じる「超光速運動」であり、実際に光より速く動いているわけではない。ジェットの両側でほぼ同じ周期や位相が得られたことから、この波がジェット全体にわたって整った構造を持つ現象だと示唆されている。

M87ジェット輝度分布の稜線の時間変と観測された横方向振動
(中段)M87ジェット輝度分布の稜線の時間変化。(上・下段)根本から各距離において観測された横方向振動。1mas(ミリ秒角)は0.27光年に対応。画像クリックで表示拡大(提供:国立天文台水沢リリース)

波の正体についてはいくつかの可能性が考えられている。一つは「アルベン波」と呼ばれる磁場に沿って伝わる横波だ。M87のジェットは強い磁場に支配されていると考えられていて、その磁場が弦のように振動しながらエネルギーを運んでいる可能性がある。今回観測された波の速さは、こうした磁気的な波の性質とよく一致している。

もう一つの可能性は、ジェットそのものが伝搬中に不安定になり、ねじれや揺らぎが成長して波のように伝わっているという解釈だ。これは川の流れにさざ波が立つような現象にたとえることができる。どの仕組みが主に働いているのかは、今後の観測や理論研究によってさらに明らかになると期待される。

また、この波はブラックホールのごく近くで生まれているとみられている。ブラックホールの周りではガスが激しく渦巻き、磁場がねじれ、エネルギーが周期的に放出されていると考えられていて、こうした変動がきっかけとなってジェット中に波が送り出されている可能性がある。実際、M87ジェットには約11年周期のゆっくりした変動も報告されており、今回見つかった約1年周期の波とは別のリズムが存在することがわかっている。ジェットは単調な流れではなく、様々な時間スケールで“鼓動”しているようだ。

〈参照〉

〈関連リンク〉

関連記事