M87ブラックホール周囲の降着円盤の乱流が明るさの変化に影響
【2025年1月28日 EHT-Japan】
約5500万光年彼方のおとめ座銀河団の中心に位置する巨大楕円銀河M87は、その銀河中心部に太陽の約65億倍の質量をもつ超大質量ブラックホールが存在する。2017年に史上初めてブラックホールの画像が撮影された対象の天体だ。
国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」では初撮影の2017年4月の約1年後、2018年4月にも再びM87ブラックホールの画像を撮影し、ブラックホールのシャドウ(影)の周囲に見られるリング構造について、その明るい部分が変化していることを明らかにしてきた。
研究チームは今回、スーパーコンピューターを用いて生成した理論シミュレーション画像12万枚を用意し、2017年と2018年の観測データと照らし合わせて理論を精査した。その結果、リングの最も明るい場所の変化には、ブラックホールの周囲を回転するガス円盤の乱流が重要な役割を果たしている可能性が示された。
「ブラックホールは理論上、周囲のガスを必ずブラックホールの自転と同じ向きに回転させます。しかし、少し離れた所では逆向きに回転していてもよいです。この場合にガスの乱流は比較的激しくなり、今回の観測結果と一致しやすいことがわかりました」(東北大学学際科学フロンティア研究所 當真賢二さん)。
「2年間の観測で得られた成果の解釈において、ブラックホールに吸い込まれるガスが逆回転している可能性が提言されたことは興味深いです。この時、生成されるジェットの構造や特性が順回転している場合と異なるため、さらに考察を進めることが楽しみです」(八戸工業高等専門学校 中村雅徳さん)。
〈参照〉
- EHT-Japan: M87ブラックホールの1年後:流入ガスの乱れを捉える
- Astronomy and Astrophysics:The persistent shadow of the supermassive black hole of M87 - II. Model comparisons and theoretical interpretations 論文
〈関連リンク〉
- Event Horizon Telescope
- 国立天文台水沢
- アストロアーツ:
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