ブラックホールからのジェット噴出の条件を解明

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ブラックホールから噴出するジェットに対する新手法によるデータ解析から、ジェットの動的な発生条件が示された。静的な発生条件に基づく従来のモデルに見直しを迫る成果だ。

【2025年4月16日 名古屋大学

活動的なブラックホールでは、周辺の高温プラズマがブラックホールに吸い込まれ、その一部が光速の99%以上という超高速で細長く噴出するジェット現象が普遍的に見られる。太陽の数倍程度の質量をもつ恒星質量ブラックホールから噴出するジェットは星の誕生現場である分子雲の形成に影響を及ぼし、銀河中心に存在し太陽の10万倍から数十億倍もの質量をもつ超大質量ブラックホールからのジェットは星の誕生を抑制して母体となる銀河の成長を遅らせたり、銀河外まで到達して周辺の宇宙環境に影響を及ぼしたりすると考えられている。

しかし、発見から100年以上が経過した今でも、ブラックホールのジェットがいつ、どのように、なぜ発生するのかはわかっていない。

名古屋大学宇宙地球環境研究所の山岡和貴さんたちの研究チームは、こぎつね座の方向に位置するブラックホールを含む連星系「XTE J1859+226」(以後XTE J1859)に着目し、ジェット現象の謎の解明に挑んだ。この天体は、太陽の5倍ほどの質量を持つブラックホールと太陽と同程度の質量の恒星からなる連星で、20日間に5~6回の頻度でジェット噴出を起こしている。

ブラックホール連星の想像図
連星系XTE J1859の想像図(提供:Jesus Corral-Santana (IAC)

山岡さんたちは1999年から2000年のXTE J1859の観測データについて、X線観測から求まる物理量の時間変化率(時間微分量)と電波観測データの総エネルギー量(時間積分量)を比較するという新しい手法を用いた分析を行った。その結果、ブラックホール周囲のガス円盤において最もブラックホールに近い位置(内縁半径)がじゅうぶん速くブラックホールに近づいて急激に小さくなることと、最もブラックホールに近い位置で遠心力と重力が釣り合う「最内縁安定軌道」に達することの2つの条件が揃うことで、ジェットが噴出することがわかった。

ガス円盤の状態やX線の特性の時間変化
ガス円盤の状態やX線の特性の時間変化。(赤の矢印)電波観測から推定されたジェット噴出のタイミング(提供:名古屋大学リリース、以下同)

この成果は、従来の現象論的な指標ではなく、ガス円盤の内縁半径の時間微分量が本質的なジェット噴出条件であることを明らかにするものだ。ジェット発生の物理的な背景としては“円盤の内縁半径が小さくなると時間変動の激しい硬X線を放射している領域が小さくなり、時間変動が少ない軟X線を放射している円盤の放射領域が増大する結果、X線スペクトルの形状が軟化し、変動割合も小さくなる”ことを示しているとみられる。

ブラックホールからのジェット噴出
ブラックホールからジェットが噴出する様子を描いたイラスト。(上)観測が開始されたころ:周囲のガス円盤の内縁半径はブラックホールから遠い位置にある。(中)円盤の内縁半径がじゅうぶん速く最内縁安定軌道まで縮み、ジェットが噴出し始める。(下)ジェットはしばらく噴出するが、円盤の内縁半径の縮む動きが止まるとジェット噴出自体も止まる

今回の研究で明らかになった「動的な条件がジェット噴出に本質的である」ことが普遍的なものと実証されれば、静的な条件をもとにしてきた従来の多くの理論モデルには修正が必要となるだろう。また、噴出条件がわかれば観測のタイミングも計りやすくなることから、効率の良い観測によってブラックホールから噴出されるジェットの理解が進むことが期待される。

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