最も重い恒星質量ブラックホールを発見
【2024年4月22日 ヨーロッパ南天天文台】
ブラックホールはその質量で大きく3種類に分けられる。重い恒星が一生を終えた後に残される「恒星質量ブラックホール」(約10太陽質量)と、銀河の中心部に存在する「超大質量ブラックホール」(数百万~数億太陽質量)、そしてこれらの中間の質量を持つ「中間質量ブラックホール」(数千~1万太陽質量)だ。
これまでに知られている天の川銀河内の恒星質量ブラックホールで最も重いのは、有名な「はくちょう座X-1」で、その質量は太陽の約21倍である。このたび、位置天文衛星「ガイア」の観測データから、はくちょう座X-1よりも重い恒星質量ブラックホールが新たに見つかった。
発見されたブラックホールは「Gaia BH3」と呼ばれ、その質量は32.70±0.82太陽質量と推定されている。わし座の方向約2000光年の距離にあり、既知の恒星質量ブラックホールの中で地球に2番目に近い天体でもある。
Gaia BH3は、「ガイア」の観測データを集約した新たなカタログ「Gaia DR4(第4期データリリース)」の編纂作業でデータをチェックしていた際に見つかった。わし座の「Gaia DR3 4318465066420528000」(別名 LS II +14 13 / 2MASS J19391872+1455542)という11.2等星の固有運動に規則的な「ふらつき」がみられ、ブラックホールが伴星になっている連星系であることがわかったのだ。
「これまで検出されずに地球の近傍に隠れていた重いブラックホールが見つかるとは、誰も予想していませんでした。こんな発見は研究人生で一度あるかどうかです」(仏・国立科学研究センター Pasquale Panuzzoさん)。
これまでに天の川銀河の外では、今回の天体と同程度の「重い恒星質量ブラックホール」が見つかっている。こうした天体の観測から、「重い恒星質量ブラックホール」は重元素が非常に少ない「金属欠乏星」の超新星爆発で作られると考えられてきた。恒星は晩年に巨星へと進化すると外層の物質を大量に放出するが、金属欠乏星はあまり質量を失うことがなく、ブラックホールの材料となる物質が多く残るからだ。ただし、金属欠乏星と重い恒星質量ブラックホールとをつなぐ直接の証拠は見つかっていなかった。
一般に連星系では、2個の恒星が似た化学組成を持っていることが多い。つまり、Gaia BH3の相手の星の化学組成を調べれば、このブラックホールの親星の化学組成についても手がかりが得られる可能性がある。そこでガイア・コラボレーションチームでは、ヨーロッパ南天天文台(ESO)のVLT望遠鏡で過去に行われたこの星の分光データを解析するとともに、スペイン・カナリア諸島のロケ・デ・ロス・ムチャーチョス天文台や仏・オートプロバンス天文台でこの星を観測し、Gaia BH3の質量を精密に見積もるとともに、この星の性質も詳しく調べた。
観測の結果、Gaia BH3の相手の星は約0.76太陽質量の金属欠乏星で、Gaia BH3との共通重心の周りを約11.6年周期で公転していることがわかった。「Gaia BH3」の親星も金属欠乏星だった可能性が高く、これまでの理論を裏付ける結果である。
Gaia DR4カタログは2025年後半にリリースされる予定だが、他の研究者が今回のブラックホールについていち早く研究できるように、ガイア・コラボレーションチームでは例外的にDR4の予備的データに基づいて発見の論文をまとめ、発表した。今後さらにこの連星系の観測が進めば、Gaia BH3の歴史や性質についても詳しくわかるだろう。
〈参照〉
- ESO:Most massive stellar black hole in our galaxy found
- ESA:Sleeping giant surprises Gaia scientists
- Astronomy & Astrophysics:Discovery of a dormant 33 solar-mass black hole in pre-release Gaia astrometry 論文
〈関連リンク〉
- ESO:Very Large Telescope
- Instituto de Astrofísica de Canarias:The Mercator Telescope
- OHP 1m93 SOPHIE Spectrograph
- Gaia
関連記事
- 2024/09/30 ブラックホールの自転による超高光度円盤の歳差運動を世界で初めて実証
- 2024/09/05 ブラックホール周囲の降着円盤の乱流構造を超高解像度シミュレーションで解明
- 2024/08/02 X線偏光でとらえたブラックホール近傍の秒スケール変動
- 2024/01/19 天の川銀河の折り重なる磁場を初めて測定
- 2023/08/04 合体前のブラックホールは決まった質量を持つ?
- 2023/04/21 アストロメトリと直接撮像の合わせ技で系外惑星を発見
- 2022/12/06 M87ブラックホールのジェットがゆるやかに加速する仕組み
- 2022/12/01 ブラックホールを取り巻くコロナの分布、X線偏光で明らかに
- 2022/11/10 「一番近いブラックホール」の記録更新
- 2022/10/24 観測史上最強規模のガンマ線バーストが発生
- 2022/08/17 ガイアのデータで描く太陽の未来
- 2022/07/25 「ブラックホール警察」、隠れたブラックホールを発見
- 2022/06/17 天の川銀河の大規模調査、ガイア第3期データの完全版公開
- 2022/06/15 伴星を持たない単独ブラックホール候補天体、初発見
- 2022/05/16 【レポート】いて座A*ブラックホールシャドウ記者会見
- 2022/05/13 天の川銀河の中心ブラックホールを撮影成功
- 2022/03/14 X線と電波が交互に強まるブラックホールの「心電図」
- 2022/03/09 「一番近いブラックホール」の存在、否定される
- 2022/02/25 天の川銀河に未知の衝突の痕跡
- 2021/12/23 天の川銀河の円盤の外縁部に予想外の構造