アストロメトリと直接撮像の合わせ技で系外惑星を発見

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位置天文衛星「ガイア」の高精度の恒星位置データとすばる望遠鏡の最新装置を使い、新たな系外惑星が直接撮像で発見された。

【2023年4月21日 すばる望遠鏡

太陽系外惑星を探索する方法は主に、主星を撮影してそばに惑星が写っていないかを探す「直接撮像」と、惑星によって主星が揺れ動いたり減光されたりする現象をとらえる間接的な方法に分けられる。これまでに5000個以上の系外惑星が発見されているが、そのほとんどは間接的方法で見つかっており、直接撮像で系外惑星が発見された例はきわめて少ない。

系外惑星の直接撮像が難しいのは、惑星のかすかな光が主星の強い光に埋もれてしまうためだ。惑星は自ら光を放射せず、サイズも恒星よりずっと小さい。これまでに直接撮像された系外惑星は主星から遠く離れた巨大惑星や、誕生したばかりで高温の熱放射を出している惑星にほぼ限られていて、恒星の近くを公転する小さな惑星を撮影できた例は20個ほどしかない。

また、直接撮像可能な系外惑星がどの恒星に存在するのかを見分ける方法がそもそもないため、たくさんの恒星をかたっぱしから撮影して探すしかないという問題もある。こうした事情から、観測の性能が飛躍的に向上した近年でも、系外惑星は直接撮像ではほとんど見つかっていない。

そこで、国立天文台/米・テキサス大学サンアントニオ校のThayne Currieさんを中心とする研究チームは、昔からある「アストロメトリ法」という探索方法に着目した。アストロメトリ法は、系外惑星の公転運動によって主星が振り回され、天球上での主星の位置がわずかに動くのを検出する方法だ。

アストロメトリ法での系外惑星探しは19世紀から試みられ、へびつかい座70番星やバーナード星(へびつかい座)を公転する惑星がアストロメトリ法で見つかったという報告が歴史上いくつもあったが、現在では全て否定されている。天球上での主星の動きは大気のゆらぎよりずっと小さいため、アストロメトリ法のみで見つかった系外惑星は1個もない。

HIP 99770 b
すばる望遠鏡の「SCExAO/CHARIS」で撮影されたはくちょう座29番星(HIP 99770)惑星系。星印が主星の位置で、コロナグラフで遮光されている。白の矢印が新たに発見された惑星「HIP 99770 b」。黄色の破線は木星軌道のサイズを示す(提供:T. Currie/Subaru Telescope, UTSA、以下同)

しかし近年、欧州宇宙機関の位置天文衛星「ガイア」が観測した精度の高い恒星位置データが公開されたことで、アストロメトリ法での系外惑星探しが現実のものとなってきた。Currieさんたちは、ガイアと先代の位置天文衛星「ヒッパルコス」のデータから位置のふらつきがみられる恒星を選び出し、すばる望遠鏡のコロナグラフ超補償光学系「SCExAO」と米・ハワイのW. M. ケック望遠鏡でこれらの恒星を撮像した。SCExAOは、大気による光のゆらぎを精密に補正し、シャープな恒星像を作り出してその中心だけをコロナグラフで遮光することで、系外惑星の暗い光をとらえられる装置だ。

この撮像画像からCurrieさんたちは、はくちょう座の方向約132光年の距離にある5等星「はくちょう座29番星」(HIP 99770)の周りを公転する、惑星「HIP 99770 b」を新たに発見した。主星のはくちょう座29番星は質量が太陽の約2倍、表面温度が約8000KのA型星で、惑星は主星から約17天文単位離れた軌道(天王星の軌道よりやや小さい)を約51年周期で公転しており、質量が木星の約15倍という巨大ガス惑星だ。

HIP 99770 b
すばる望遠鏡でとらえた、2020年7月から2021年10月までのHIP 99770 b(白の円内)の動き

アストロメトリ法と直接撮像法を組み合わせて系外惑星が発見されたのは、これが世界初となる。研究チームの田村元秀さん(アストロバイオロジーセンター)は、「本研究の手法で、新たな系外惑星の発見が続くでしょう。次世代の望遠鏡と補償光学を用いた将来の観測では、この手法で「第二の地球」が観測されることも夢ではありません」と語っている。

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