カイパーベルトの外側に10個以上の天体を発見
【2024年9月10日 すばる望遠鏡】
2006年に打ち上げられたNASAの探査機「ニューホライズンズ」は、2015年に冥王星系をフライバイ(接近飛行)し、2019年には海王星軌道の外にある小天体の多い領域「カイパーベルト」の天体「アロコス」へのフライバイを行った。
ニューホライズンズは、カイパーベルト内からカイパーベルト天体(KBO)の観測に成功した唯一の探査機だ。カイパーベルトは太陽から30au(1au=約1.5億km)以上の距離にあるが、地球と太陽は1auしか離れていないため、地球から見るKBOは太陽位相角(太陽−天体−観測者を挟む角)が常に小さい。つまり、いつ見ても「満月」のようにKBOの正面から太陽光が当たった状態しか観測できないのだ。一方、カイパーベルト内の探査機から観測すれば、様々な位相角のKBOを見ることができ、反射光の特徴から天体の表面状態なども推定できる。
しかし、探査機のカメラは視野が狭いため、探査機自身でKBOを発見するのは不可能だ。そこで、ニューホライズンズの打ち上げに先立つ2004年から、同機の科学チームはすばる望遠鏡などの地上望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡(HST)を使い、ニューホライズンズの進行方向にあるKBOをたくさん見つけて、冥王星探査の後にニューホライズンズが接近可能なKBOや、探査機から観測できる天体を絞り込んできた。アロコスはこの探索で2014年にHSTが発見したKBOだ。
この探索の一環として、2004~2005年にすばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam(シュプリーム・カム)」が観測を行った際には、ニューホライズンズはいて座の方向にあった。そのため、KBOを探す視野は天の川銀河の中心方向となり、背景の星が多くKBO探しは困難を極めたが、それでも24個のKBOが新たに発見された。
このときに見つかったKBOは、探査機の残り燃料で到達できる位置になかったため、フライバイ対象の候補にならなかったが、2020年からは後継の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC; ハイパー・シュプリーム・カム)」を使い、より遠方のKBOを探す観測が始まった。この観測で得られる画像は、背景の星が密集しているだけでなく、検出したい天体も非常に暗いため、ノイズや他の天体とKBOを区別できる新たな解析手法が採用された。これによって2023年までに239個のKBOが見つかった。
現在の知見では、カイパーベルトは太陽から30~55au(45億~82億km)の範囲とされていて、HSCで発見されたKBOの多くはこの範囲にある。一方、カイパーベルトの外縁よりさらに遠い場所にもKBOが見つかった。「HSCによる観測で最もエキサイティングだったのは、既知のカイパーベルトを超える距離にある天体が11個も見つかったことです」(産業医科大学、千葉工業大学惑星探査研究センター 吉田二美さん)。
HSCで見つかったKBOの分布を詳しく見ると、70~90au(105億~135億km)あたりにKBOの未知のグループが存在するように見える。また、55~70auの範囲にはKBOが少なく、分布の「谷間」のように見える。このようにKBOの少ない領域が存在することはこれまで知られていなかった。
「70~90auに新たな天体群があるのかもしれない。もし、これが確かならば大発見です。原始太陽系星雲は、これまで信じられていたよりもはるかに大きかったことになり、太陽系の惑星形成過程の研究に影響を与えるかもしれません」(吉田さん)。
研究チームは発見された天体の正確な軌道を決定するため、HSCでの観測を続けている。「遠方天体の発見とその軌道分布を明らかにすることは、太陽系の形成の歴史の一端を紐解く重要な手がかりです」(吉田さん)。
現在、ニューホライズンズは太陽から59.8au(89億5000万km)の位置にあり、太陽系の外へ飛行している。探査機と地上望遠鏡の連携で、同機が立ち寄れる新たなKBOが見つかるかもしれない。また、太陽系科学に関する新発見も期待される。
〈参照〉
- すばる望遠鏡:明かされつつある太陽系外縁の構造 -すばる望遠鏡とニューホライズンズの 20 年の挑戦
- Planetary Science Journal:論文プレプリント
〈関連リンク〉
- すばる望遠鏡
- New Horizons:
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