クエーサーが生まれるダークマターハローの質量はほぼ同じ
【2023年9月19日 東京大学大学院理学系研究科・理学部】
銀河は、ダークマターの塊である「ダークマターハロー」の中で誕生したと考えられており、個々の銀河は光で観測できる星やガスの他に、その約10倍もの質量を持つダークマターハローを伴っている。また、ほぼ全ての銀河の中心には、太陽の数百万倍から数億倍の質量を持つ「超大質量ブラックホール(SMBH)」が存在する。
これまでの観測から、SMBHが重い銀河ほど銀河の星々の総質量も大きいという「銀河とSMBHの共進化関係」や、星々の総質量が大きな銀河ほどダークマターハローの質量も大きいという関係が知られている。これらを考え合わせると、初期宇宙に存在する銀河でも、SMBHが重いほどダークマターハローの質量は大きいという関係が成り立つと予想される。
SMBHに星やガスがさかんに落ち込んで非常に明るい状態になっているものを「クエーサー」と呼ぶ。クエーサーは遠方(初期)の宇宙にあっても見えるので、初期宇宙の研究には欠かせない観測対象だ。しかし、クエーサーがどのくらいの質量のダークマターハローを伴っているのかは今までよくわかっていなかった。
ダークマターは光で観測できないので、ダークマターハローの質量を測定するのは難しい。ただし、ダークマターは星やガスなどの「普通の物質」に重力を及ぼすので、天体に働く重力を何らかの形で測定できれば、ダークマターの質量を間接的に見積もることができる。
そのような方法の一つとして、銀河の「群れ具合」を利用するやり方がある。質量が大きなダークマターの塊には周りから他のダークマターの塊が群れ集まるので、これらの塊の中で生まれる銀河やクエーサーも強く群れ集まった状態になる。そこで、銀河やクエーサーの「群れ具合」を測定すれば、付随するダークマターハローの質量を推定できるのだ。
しかし、クエーサーには遠い(=昔の)宇宙になるほど個数が減るという性質があるため、クエーサーの群れ具合を利用したダークマターハローの質量推定は、これまでは約120億年光年までが限界だった。
東京大学の有田淳也さんたちの研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム)」を用いた遠方クエーサーの探査プロジェクト「SHELLQs(Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars)」で見つかった107個のクエーサーを使い、約130億年前の宇宙でクエーサーの「群れ具合」を測定して、クエーサーを取り巻くダークマターハローの質量を見積もった。
解析の結果、約130億年前の宇宙ではクエーサーに付随するダークマターハローの質量は約5兆太陽質量という値になった。この結果を他の時代のクエーサーと比べると、クエーサーを取り巻くダークマターハローの質量は時代によらず、ほとんど一定であることがわかった。
一般には、ダークマターハローは時間とともにより多くのダークマターの塊を重力で集めて質量が増えていくはずだ。そこで、今回の結果を踏まえると、宇宙ではいつの時代でも、ダークマターハローの質量が特定の範囲に入るとSMBHの活動性が高まってクエーサーになるとも考えられる。つまり、SMBHをクエーサーへと「スイッチオン」させる普遍的な仕組みが、時代によらず宇宙には存在するのかもしれない。
〈参照〉
- 東京大学 大学院理学系研究科・理学部:クエーサーの光、ダークマターの影—130億光年先のブラックホールを包み込むダークマターの質量を初めて測定
- The Astrophysical Journal:Subaru High-z Exploration of Low-Luminosity Quasars (SHELLQs). XVIII. The Dark Matter Halo Mass of Quasars at z~6 論文
〈関連リンク〉
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