「宇宙の夜明け」時代に見つかった双子の巨大ブラックホール

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すばる望遠鏡の画像から、129億年前の超遠方宇宙で合体しつつある巨大ブラックホールが見つかった。これほど古い宇宙で合体中の巨大ブラックホールが確認されたのは初だ。

【2024年6月24日 すばる望遠鏡

約138億年前のビッグバンから2億~5億年ほど経ったころ、宇宙で最初に誕生した星々が放つ紫外線によって、宇宙空間を満たしていた中性の水素ガスはプラズマになっていった。これを「宇宙の再電離」と呼んでいる。再電離は宇宙年齢で9億~10億年ごろには完了し、現在も銀河間空間のきわめて薄い物質は完全に電離されている。

再電離が起こるまでの宇宙は、光を放つ天体のない「暗黒時代」だった。そのため、宇宙の再電離は「宇宙の夜明け」とも呼ばれる。この時代に銀河やその中心にある超大質量ブラックホールがどのように進化し、再電離にどう影響したのかは天文学の大きな謎の一つだ。

宇宙再電離の時代を調べる上で重要な「道具」となるのが、遠方の宇宙に存在する「クエーサー」だ。クエーサーは銀河中心の超大質量ブラックホールが周囲の物質を飲み込むことで莫大なエネルギーを放出し、明るく輝く天体である。宇宙で最も明るい天体なので、超遠方の宇宙にあっても見つけることができる。現在、初期宇宙に存在するクエーサーがさかんに探索されていて、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ「ハイパー・シュプリーム・カム(HSC)」を用いた大規模観測プログラム「HSC-SSP」でも、これまでに約200個の超遠方クエーサーが発見されている。

だが、これまでの超遠方クエーサーの探索では、ペアになっているクエーサーは1つも見つかっていなかった。現在広く受け入れられている宇宙モデルでは、初期宇宙の銀河同士が集合・合体してより大きな銀河へと進化していくとされるので、再電離の時代の銀河に超大質量ブラックホールがあれば、合体中の超大質量ブラックホールのペアもあるはずだが、未検出だったのだ。

そのような状況のなか、愛媛大学の松岡良樹さんたちの研究チームは、HSC-SSPで得られた画像を調べているときに、おとめ座の領域で、非常に赤い、似通った2つの天体が隣り合っているのを見つけた。

松岡さんたちが、すばる望遠鏡の微光天体分光撮像装置「FOCAS」と米・ハワイのジェミニ北望遠鏡の赤外線分光器「GNIRS」でこの2天体を追観測したところ、これらはともに129億光年先(赤方偏移z=6.05)にあるクエーサーであることが判明した。

2つの超大質量ブラックホール
129億光年彼方の初期宇宙で発見された2つの超大質量ブラックホール「HSC J121503.42-014858.7 (C1)」と「HSC J121503.55-014859.3 (C2)」(提供:NOIRLab/NSF/AURA/T.A. Rector (University of Alaska Anchorage/NSF NOIRLab), D. de Martin (NSF NOIRLab) & M. Zamani (NSF NOIRLab))

また、2つのクエーサーの中心にある超大質量ブラックホールがほとんど同じ質量を持つことや、2つのクエーサーがまさに合体の最中であることを示唆する、クエーサー同士をつなぐような長さ約4万光年のガスの構造が存在することもわかった。

クエーサーをつなぐガスの構造
すばる望遠鏡の「FOCAS」でクエーサーC1とC2を分光・撮像した画像。(左)2次元分光データ。横軸が視線速度、縦軸が横断方向の実距離を表す。2本の明るい線がC1, C2のスペクトルで、C1, C2とほぼ同じ視線速度を持つ(=地球からC1, C2とほぼ同じ距離にある)構造(bridge)が両者の間に見られる。(右)撮像データ。破線内はC1, C2より手前にある天体(提供:Y. Matsuoka et al.

「宇宙の夜明けに合体中のクエーサーが存在することは長い間予想されながら、見つかってきませんでした。それが今回初めて確認されました。またアルマ望遠鏡による追観測から、周囲のガスが非常に興味深い構造をしていることも明らかになっています。衝突と合体を繰り返しながら成長する銀河の中で、巨大ブラックホールがどのように進化するのかを知るための重要な発見です」(松岡さん)。

合体する超大質量ブラックホールの想像図
「宇宙の夜明け」の時代に見つかった合体する超大質量ブラックホールの想像図(提供:NOIRLab/NSF/AURA/M. Garlick)

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