初期宇宙の巨大ブラックホールは成長が止まりがち
【2024年3月15日 東京大学大学院理学系研究科・理学部】
現在の宇宙では、銀河の中心に存在する「超大質量ブラックホール(Supermassive Black Hole、以下SMBH)」とその母銀河の間に、「銀河の質量が重いほどSMBHの質量も重い」という、ほぼ正比例の関係(マゴリアン関係)がある。これは、SMBHと母銀河が互いに影響しあって「共進化」した結果だと考えられているが、具体的にどんなしくみでこうした関係ができたのかは大きな謎だ。
もし過去の宇宙でもこの正比例の関係が見られるなら、銀河とSMBHは長い時代にわたって同じペースで質量を増やしてきたことになる。一方、もし過去の宇宙で正比例の関係が崩れているなら、両者はかなり複雑な進化を経てきたのかもしれない。ここで過去の様子を調べるうえで問題となるのが、過去(=遠方)の宇宙の銀河にあるSMBHは、「クエーサー」のようにきわめて明るい例外を除くとまず地球からは見えないことだ。このため、過去のSMBHの質量を見積もる方法はほぼないのが実情である。
東京大学の松井思引さんを中心とする研究チームは、銀河とSMBHの質量を求める代わりに、両者の質量の「時間変化率」を観測から見積もることを考えた。
マゴリアン関係でSMBHの質量に正比例している「銀河の質量」とは、正確には「銀河を形づくる『楕円体成分』の質量」のことである。渦巻銀河の場合は円盤部分を除いた「バルジ」の質量、楕円銀河の場合には銀河全体の質量がこれに当たる。楕円体の部分にはガスはほとんどなく、恒星たちがその質量を担っている。
そこで松井さんたちは、銀河質量の時間変化率とほぼ同じ意味を持つ値として、銀河の「星形成率」(1年間に生まれる新たな星の総質量)を使うことにした。銀河の星形成率は、紫外線や赤外線で銀河を観測すれば容易に求められる。
一方、SMBH質量の時間変化率は、その銀河をX線で見たときの明るさから推定できる。SMBHに引き寄せられた物質は高温の降着円盤を作り、X線を放射するため、急速に物質を取り込んで急成長するSMBHほど強いX線を出すのだ。
ただし、100億光年を超えるような遠方になると、クエーサーなどでない「普通の銀河」のSMBHが出すX線は非常に弱く、観測できない。そのため、松井さんたちは「X線スタッキング」という手法を使った。これは、ほぼ同じ距離にあるたくさんの銀河のX線画像を重ね合わせて、銀河たちの「平均的な」X線像を作り出すものだ。こうすることで画像のノイズが減り、淡いX線の像が浮かび上がってくる。
松井さんたちは「チャンドラX線天文台」のサーベイ観測データを使い、赤方偏移zがおよそ4から7(122億~130億年前)の時代にある約1万2000個の銀河について、zや見かけの明るさごとに銀河をグループ分けしてX線画像を重ね合わせ、平均的なX線像を求めた。
解析の結果、いずれのグループでも予想以上にX線は弱く、合成後の画像からX線成分を検出することはできなかった。この結果から、SMBHの質量増加率の「上限値」を求めて銀河の星形成率と比べたところ、どの時代・明るさについても、SMBHの質量増加率は「正比例の関係」が成り立つのに必要な値の1割以下しかないことがわかった。
つまり、122億~130億年前の宇宙では、銀河とSMBHは同じペースでは全く成長しておらず、銀河の方はさかんに星を生み出して成長しているのに、SMBHの方はほとんど成長が止まっていたようなのだ。
言い換えれば、現在の銀河とSMBHにマゴリアン関係が存在するためには、過去のあるタイミングで銀河がSMBHを急成長させる時期がなければならない。この結果は、銀河とSMBHの単純な共進化モデルに修正を迫るものだ。
〈参照〉
- 東京大学:銀河が頑張って星を作っていた時、ブラックホールは休んでいた… ――120億年以上昔の宇宙における銀河とブラックホールの意外な関係――
- MNRAS:X-ray stacking reveals average SMBH accretion properties of star-forming galaxies and their cosmic evolution over 4 ≲ z ≲ 7 論文
〈関連リンク〉
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