最も重い巨大ブラックホール連星を発見

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楕円銀河の中心にある巨大ブラックホール連星の質量が、周囲の恒星の運動から求められた。質量がわかった巨大ブラックホール連星としては最も重いものだ。

【2024年3月8日 ジェミニ天文台

「超大質量ブラックホール(Supermassive Black Hole; SMBH)」を持つ2つの銀河が衝突・合体すると、中心のSMBH同士も連星となり、最終的には合体するはずだ。銀河が衝突合体するとき、SMBH同士は正面衝突するのではなく、互いに接近してはすれ違う「二体散乱」を繰り返す。この二体散乱が起こる際に別の恒星も同時に接近する「三体相互作用」が起こると、恒星はSMBH連星から運動エネルギーをもらってはじき飛ばされ、2個のSMBHは位置エネルギーを失って間隔が近づく。これを「スリングショット(パチンコ効果)」という。

SMBH連星がスリングショットを繰り返して間隔が数光年まで近づくと重力波を放出し、最後には合体する。恒星質量ブラックホールの連星では、2015年以来、重力波望遠鏡によってこうした合体が観測されているが、SMBH連星ではまだ観測例はない。そのため、SMBH連星が本当に合体するのかについては長年議論が続いている。

米・スタンフォード大学のTirth Surtiさんたちのグループは、米・ハワイの「ジェミニ北望遠鏡」の多天体分光計(GMOS)で過去に観測されたデータから、ペルセウス座の方向約8億光年の距離にある楕円銀河「B2 0402+379」(4C +37.11)のSMBH連星に注目した。このペアは2個のSMBHがわずか24光年しか離れておらず、ブラックホール同士の間隔が直接測定されたSMBH連星としては最も接近した天体だ。

SMBH連星
2個の超大質量ブラックホールからなる連星を描いたイラスト。SMBH連星の合体は長年予言されているが、観測例はない(提供:NOIRLab/NSF/AURA/J. daSilva/M. Zamani)

これまでの研究で、B2 0402+379のSMBH連星はなぜか過去30億年間にもわたってこの間隔を保ったまま、合体していないことが知られている。そこで、研究チームはGMOSのデータからSMBH連星の周囲にある恒星の速度を見積もった。「GMOSの素晴らしい感度のおかげで、恒星が銀河中心へ近づくにつれて速度が上がる様子をとらえることができ、2個のブラックホールの合計質量を求めることができました」(スタンフォード大学 Roger Romaniさん)。

解析の結果、このSMBH連星の合計質量は太陽質量の約280億倍と見積もられた。この値は過去に測定されたSMBH連星の質量としては最大だ。

これまでの研究から、B2 0402+379のSMBH連星は数回の銀河合体を経ているとみられている。その理由は、この母銀河が「銀河団の化石」らしいという点だ。つまり、1個の銀河団が持つ星とガスの大半が合体して1個の巨大楕円銀河になったという天体なのだ。しかも、SMBHが2個存在し、合計質量がこれほど大きいことから、複数の銀河にあった複数個のSMBHが何段階も合体してここまで成長したことがうかがえる。

今回求められた質量の大きさからみて、このSMBH連星の軌道をここまで接近させるには莫大な数の恒星が必要だったと研究チームは考えている。2個のSMBHがこの距離になるまでの間に、SMBHは周囲の物質をスリングショットでほぼ全てはじき飛ばし、銀河中心部から星やガスを一掃してしまう。その結果、SMBH連星をこれ以上近づけるのに必要な物質がもう周りに存在せず、現在の軌道にとどまっているというのだ。

「もっと軽いブラックホール連星を持つ銀河であれば、すばやく合体できるほどの十分な星や質量が周囲にあると思われます。今回のペアは非常に重いので、合体させるには大量の星とガスが周りに必要ですが、銀河中心部から物質をなくしてしまったために現在の軌道を保っていて、私たちの研究対象になったというわけです」(Romaniさん)。

もしこのSMBH連星が合体すれば、放射される重力波は恒星質量ブラックホール連星の重力波より数億倍も強いものになるだろう。だが、このペアが停滞を乗り越えて数百万年後に合体するのか、あるいは永遠に今の軌道にとらわれ続けるのかについてはまだわからない。

もし母銀河が別の銀河とさらに衝突合体すれば、追加の物質と3個目のブラックホールが供給されてSMBH連星の軌道がさらに近づき、「最後の距離」を征服できるだろう。だが、この母銀河が“銀河団の化石”状態であることを考えると、他の銀河と合体することはありそうにない。

「B2 0402+379の中心核をさらに追跡調査して、どれくらいのガスが存在するのかを調べるのを楽しみにしています。それによって、このSMBHたちが合体するのか、連星でい続けるのかを知る、さらなる手がかりが得られるでしょう」(Surtiさん)。

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