超大質量ブラックホール連星に起因するクエーサーの周期的光度変動
【2025年1月23日 東京大学大学院理学系研究科】
活動銀河核の一種で、とりわけ明るいクラスに分類されるクエーサーは、一般的に明るさがランダムに変動するが、1000個から10000個に1個の割合で周期的な光度変動を示すものがあることがわかってきている。その要因としては、2つの超大質量ブラックホール(Binary Supermassive Black Holes; BSBH)の周期運動によるという説が有力候補の一つとなっている。
東京大学の堀内貴史さんたちの研究チームは、うみへび座の方向にある天体「WISE J090924.01+000211.1」(以下、WISE J0909)について、過去の観測のアーカイブデータから光度変動の様子を調べた。WISE J0909は赤外線の光度が太陽の100兆倍を超えるという極めて明るい銀河であり、中心に非常に明るいクエーサーが存在している。このようなタイプの銀河は過去にブラックホールを含む銀河同士の合体を経験した可能性があり、銀河と超大質量ブラックホールの共進化のピーク段階にあると考えられているが、これまでは光度変動が詳しく調べられたことはなかった。
解析の結果、WISE J0909の光度変動は正弦波でモデリング可能な周期的なものであることが示された。石垣島天文台の「むりかぶし望遠鏡」と岡山天体物理観測所の「MITSuME」、「光赤外線天文学大学間連携(OISTER)」による追加の観測でも、正弦波モデルに基づく予想どおりにWISE J090の光度変動が見られ、変動の周期性が偶然ではないことも確かめられた。変動周期は約1900日(静止系で約700日)と見積もられている。
さらに堀内さんたちは、WISE J0909の明るさの変動がBSBHによるものという仮説を検証した。BSBHが周回する系では、降着円盤を伴うブラックホールの速度は周期的に変化する。このブラックホールが相対論的速度で運動していると、観測される光も相対論の効果を受けて、観測者に近づくと明るく、遠ざかると暗くなる。この「相対論的ドップラーブースト」と呼ばれる過程で、周期運動と相対論的な効果が組み合わさることで、明るさが周期的に変化すると考えられる。研究チームの検証によればデータとドップラーブーストによる理論予想は概ね一致しており、WISE J0909の周期光度変動がBSBHのドップラーブーストによって引き起こされた可能性を支持する結果が得られている。
〈参照〉
- 東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター:極めて明るいクェーサーに周期的な明るさの変動を発見
- PASJ:The possible long-term periodic variability of the extremely luminous quasar WISE J090924.01+000211.17 論文
〈関連リンク〉
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