ダークマターの小さな「むら」をアルマ望遠鏡で初検出
【2023年9月8日 アルマ望遠鏡】
宇宙誕生の直後には、光子やニュートリノ、クォークや電子などの物質粒子、そしてダークマターが生み出された。物質粒子とダークマターはどちらも質量を持ち、重力を及ぼし合うが、ビッグバン直後の物質粒子は荷電粒子のプラズマになっていて、光子とさかんに相互作用をしていたため、濃い部分が重力で集まって成長することはなかった。一方、ダークマターは光子と相互作用しないため、密度の濃い部分が重力で集まって成長し、星や銀河などの天体の「種」となった。
ビッグバンから約38万年後に、物質粒子がプラズマから中性の水素・ヘリウム原子になると、物質が光子と相互作用しなくなる「宇宙の晴れ上がり」が起こり、物質もダークマターの濃い部分に集まって、現在の恒星や銀河が誕生した。つまり、現在の宇宙の構造ができたのにはダークマターが重要な役割を果たしている。
ダークマターは光(電磁波)で観測できないが、間接的に分布の様子を知ることはできる。遠くの天体と地球との間にダークマターの多い領域があれば、天体から届く光の経路がダークマターの重力でわずかに曲がり、天体の見かけの位置や形が変わる。この現象を「重力レンズ効果」と呼ぶ。
こうした重力レンズ効果の観測から、大きなスケールでのダークマターの分布は、光で見える銀河や銀河団の分布とほぼ同じであることがわかっている。つまり、大きく重い銀河や銀河団にはダークマターもたくさん付随しているわけだ。だが、銀河よりも小さなスケールでダークマターがどのように分布しているかは詳しくわかっていなかった。
近畿大学の井上開輝さんたちの研究チームは、アルマ望遠鏡を用いて、おうし座の方向約110億光年の距離にあるクエーサー「MG J0414+0534」の重力レンズ像を詳しく調べた。
このクエーサーは手前にある銀河の重力レンズ効果で4つの像に分かれて見えているが、井上さんたちの観測によって、クエーサー像の変形の仕方が、手前の銀河の重力レンズ効果だけでは説明ができないことがわかった。
そこで井上さんたちは、銀河の重力レンズのみの場合の像の見え方と、実際に観測された像とのずれから、光路上にダークマターの塊がどう分布しているのかを推定した。その結果、銀河よりも小さな複数のダークマターの塊によってクエーサー像がさらに歪められており、およそ3万光年のサイズでダークマターの密度に「ゆらぎ」があることが判明した。これは、天の川銀河の直径の3分の1ほどのスケールだ。
これほど小さなダークマターの塊が起こす重力レンズ効果は非常に小さいため、これ自体を単独で検出することはきわめて難しい。井上さんたちはアルマ望遠鏡の高い解像度を利用して、初めて検出に成功した。
初期宇宙でどのように天体の構造ができるかはダークマターの性質によって変わるが、現在では、ダークマター粒子の速度が光速よりずっと遅い「冷たいダークマター(CDM)」モデルが観測によく合うとされていて、銀河の内部だけでなく銀河間空間にも小規模なダークマターの塊がたくさん存在すると予測されている。今回見つかったゆらぎは、CDMモデルの予測とよく整合するものだ。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡でダークマターの小規模なゆらぎを初検出 ~ダークマターの正体解明へ重要な一歩
- The Astrophysical Journal:ALMA Measurement of 10 kpc Scale Lensing-power Spectra toward the Lensed Quasar MG J0414+0534 論文
〈関連リンク〉
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