謎の天体で作られる銀河の雪

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赤外線天文衛星「あかり」の観測データから発見された氷天体をアルマ望遠鏡で観測したところ、星間氷が付随する既知の天体と異なる性質を持つ、新種の天体である可能性を示唆する結果が得られた。

【2025年3月6日 新潟大学

星や惑星が形成される領域の大部分は一般的に極めて低温(約マイナス260℃)で、この領域に存在するダスト(固体微粒子)の表面に原子や分子が吸着すると星間氷が形成される。星間空間の温度と圧力の環境下では、気体の状態での化学反応に比べて固体の状態での反応の方がはるかに効率的に複雑な有機分子を生成できるため、星間氷が作られる現場は、複雑な有機分子を生成する場でもあると考えられている。

宇宙に存在する星間氷の想像図
宇宙に存在する星間氷の想像図。ダストの表面上に気相の状態にある原子や分子が吸着して氷が形成される。氷には水、二酸化炭素、一酸化炭素、メタノール、アンモニア、メタンといった分子が含まれ、これらの分子の大部分はダスト表面での化学反応により生成されると考えられている(提供:下西隆さん

2021年に赤外線天文衛星「あかり」の観測データを用いた研究から、天の川銀河の渦巻き腕の一つである「たて・ケンタウルス腕」の方向に位置する、赤外線で明るく輝き星間氷が豊富に付随する天体が2つ発見された。一般的に星間氷は星・惑星形成途上の天体や星形成の母体となる分子雲、激しい質量放出を行っている年老いた星で検出されるが、発見された2天体はいずれもそのような領域や天体に属しておらず、素性は謎に包まれていた。

新潟大学の下西隆さんたちの研究チームはこれら2天体の性質を探るため、アルマ望遠鏡で新たな電波観測を行った。もし、天体の正体が星・惑星形成途上の天体であれば、付随する様々な分子ガスの輝線が検出されると考えられる。あるいは、これまでの観測で見落とされていた分子雲が2天体の方向に存在する場合は、一酸化炭素の輝線から空間的に広がったガスの構造が検出されるはずだ。

ところが、下西さんたちの観測結果はどちらにも当てはまらず、両天体の位置で非常にコンパクトな分布を持つ一酸化炭素と一酸化ケイ素の分子輝線だけが検出された。

氷天体からの分子輝線放射
アルマ望遠鏡がとらえた氷天体からの分子輝線放射(擬似カラー画像)。背景は別の赤外線観測の擬似カラー画像(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Shimonishi et al.)

観測結果からは、謎の氷天体について次のような物理的・化学的性質が示唆される。

  • 2つの天体は3万~4万光年程度に位置する遠方天体である。
  • 2つの天体は(見かけ上で)近接していて、よく似た明るさと星間氷の性質を示しているが、全く異なる運動をする独立した天体である。
  • サブミリ波放射は検出されず、これまで氷が検出されている天体の特徴と一致しない、特殊なエネルギー分布を持つ。
  • 一酸化ケイ素と一酸化炭素の分子存在度比は0.001程度で、通常の分子雲では見られないほど高い。
  • 一酸化炭素分子から予想されるガスの量や、サブミリ波放射の未検出から予想される塵の量の上限値は、吸収バンドから予測されるものと比べて遥かに小さい。
  • 天体の大きさは100~1000天文単位(太陽から海王星間の3~30倍程度)と見積もられ、星形成の母体となる分子雲の100分の1以下とかなりコンパクトである。

これらの性質は、星間氷が付随することが知られている既知の天体の特徴では説明できないものだ。2つの天体は、これまでに知られていない新たなタイプの氷天体である可能性が示唆される。

様々な天体のエネルギー分布
様々なタイプの天体のエネルギー分布。今回の研究対象である2天体の特徴は、既知の天体のものと一致していない(提供:Shimonishi et al.)

今後、アルマ望遠鏡を用いた高解像度の観測や、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などによる星間氷・塵の詳細な観測で、これら謎の氷天体の正体が明らかになることが期待される。

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