電波望遠鏡の部品を3Dプリンターで作成
【2022年11月1日 アルマ望遠鏡】
3次元モデルデータに基づいて材料を積層・結合させて立体物を生成する3Dプリンターは、削って加工するよりも複雑な造形が可能で、設計から実体化までの期間が短いことなどから、活用される場面が広がっている。なかでも金属を出力するものは、様々な産業で部品を製造するために用いられるようになった。
天文観測機器や装置は特定の望遠鏡専用のものがただ1つ作られるという場合が多く、そこで使われる部品も特殊なものが多い。こうしたシーンは、同じ物を大量生産するのが苦手な代わりに複雑な形状を作りあげるのが得意な3Dプリンターと相性が良く、金属3Dプリンターによる恩恵を受けられる。国立天文台では2015年ごろから、観測機器への3Dプリンター技術の応用を検討してきた。
そのようななか、アルマ望遠鏡に搭載されるバンド1受信機の部品について、金属3Dプリンターによる製造が検討された。この受信機はアンテナが集めた周波数35~50GHzの電波を受け取るものだ。3Dプリンターで可能なことと不可能なこと、利点と欠点を検証した結果、2019年に同天文台の先端技術センターに金属3Dプリンターを導入し、コルゲートホーンという部品を製作することになった。
コルゲートホーンは受信機で最初に天体からの電波を受けて、検出器へ集光する装置だ。内側にいくつもの溝を設けることで、幅広い周波数の電波を効率よく集めるしくみとなっている。アルマ望遠鏡で実用化するには、できあがったコルゲートホーンの電波に対する特性を調べ、仕様を満たしていることを確認しなければいけない。そのうえ、受信機は極低温の真空環境に設置されるため、3Dプリンターで出力される金属材料の物性も入念に調べられた。
開発や製造に際しては、精密な部品を作ることの難しさもさることながら、新たに導入された装置や周辺機器、専用ソフトウェアの操作など、新たに習得することが山積みだったことも大変だったという。開発期間約2年を経て、従来の切削加工によるものと同等に使用できるコルゲートホーンが製作された。
このコルゲートホーンは、バンド1受信機開発の主担当である台湾・中央研究院天文及天文物理研究所で受信機に搭載され、最終性能評価が進められている。ここまでの結果は順調で、今後数か月のうちに受信機ユニットはチリのアルマ望遠鏡サイトへ輸送される予定だ。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:金属3Dプリンタで製作された初の電波天文用極低温受信機部品
- Journal of Infrared, Millimeter, and Terahertz Waves:Metal 3D-Printed 35-50GHz Corrugated Horn for Cryogenic Operation 論文
〈関連リンク〉
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