「ステファンの五つ子」が持つ、星を生みやすいガス、生みにくいガス
【2026年7月21日 大阪公立大学】
ガスから新たな星が作られる「星形成」は、銀河を進化させる最も基本的なしくみで、この過程を理解することは、銀河の進化史を解明する上で非常に重要だ。
今から100億年以上前の初期宇宙では、銀河どうしの間隔が現在より密で、銀河の衝突や相互作用が頻繁に起こっていた。銀河どうしが相互作用すると、星の材料となる分子ガスが急激に圧縮されて星形成が活発になる一方、逆に分子ガスが銀河から流出して枯渇し、結果的に星形成が抑えられる可能性もある。
星形成が進むのか抑えられるのかは、銀河のサイズや形、質量、ガスの分布や含有量などの性質や、衝突の速度、銀河の位置関係など、様々な要因で決まるはずだ。だが、宇宙初期の銀河はきわめて遠方にあるため、衝突中の個々の銀河を見分けて観測するのが難しく、研究が進んでいない。
大阪公立大学の山本美咲さんたちの研究チームは、私たちの天の川銀河から近い宇宙にある「コンパクト銀河群」に着目した。コンパクト銀河群は4~10個ほどの銀河が密集した天体で、銀河の衝突や相互作用が頻繁に起こり、宇宙初期に近い環境だと考えられる。
有名なコンパクト銀河群として、ペガスス座にある「ステファンの五つ子」(Stephan's Quintet、以下SQ)」がある。この天体では5個の銀河が集まって見えているが、このうち4個が実際にコンパクト銀河群を形づくっていて、地球から約2億9000万光年の距離にある。残りの1個(NGC 7320)はたまたま重なって見えている前景の銀河だ。

ステファンの五つ子(撮影:屋天光さん)
SQでは、過去に何度も銀河どうしの相互作用が起こったと考えられ、ガスが圧縮されてできた大規模な衝撃波や、衝突の際に潮汐力で星やガスが銀河外に引きずり出された「潮汐尾」という細長い構造がみられる。
山本さんたちはチリのアルマ望遠鏡の一部を構成する「アタカマコンパクトアレイ(ACA)」でSQを観測し、約45万光年×39万光年の範囲をカバーする分子ガスの三次元分布図を世界で初めて描き出すことに成功した。

ステファンの五つ子の分子ガスの三次元空間構造。一酸化炭素分子が放つ電波の周波数情報から、視線方向の距離を推定したもの。色が赤い部分ほど分子ガスが多い(提供:大阪公立大学)
観測の結果、潮汐尾に沿って伸びる細長い分子ガスの構造や、孤立して存在する分子ガスの塊(クランプ)、衝突する銀河どうしをつなぐ橋(ブリッジ)構造が発見された。分子ガスクランプは、銀河の本体からはるか離れた場所で起こる星形成の重要な材料となっている可能性が高い。

(上)一酸化炭素(CO)分子が出す電波の強度分布。星の材料となる分子ガスの分布を表す。黄色の線が今回発見されたブリッジ構造。(中)ステファンの五つ子に見られる主な構造。NGC 7317/7318A/7318B/7319が銀河群のメンバー銀河で、SQ-A、SQ-Bが特に星形成の活発な領域。NGC 7320は手前に重なって見えている銀河。緑の点線が潮汐尾、青の実線がブリッジ構造を表す。紫の一点鎖線は、銀河衝突の衝撃波でガスが圧縮されてできたフィラメント構造、赤の破線はSQ-Aの一部を形づくる、速度が中間的な分子ガスの拡がり。(下)今回発見された分子ガスクランプの分布。画像クリックで表示拡大(提供:M.Yamamoto et al.)
また、SQの様々な領域で起こっている星形成の効率(=星形成率を分子ガスの質量で割った値)を調べたところ、衝撃波構造に沿った星形成領域や一部の分子ガスクランプでは、天の川銀河に近い宇宙にある渦巻銀河と同程度かそれ以上に星が生まれやすいことがわかった。一方で、衝撃波構造と銀河本体の間に広がっている分子ガスの領域では、星形成の効率が渦巻銀河の100分の1しかなく、きわめて星が生まれにくい環境であることが明らかになった。これらの結果は、銀河間の相互作用が分子ガスの圧縮/拡散の両方の働きに関わっていて、最終的に星形成の「格差」を生んでいることをうかがわせる。
今回の観測で、銀河の相互作用から生じる「星の生まれやすさ」には場所ごとに大きな差があることが明らかになった。銀河間の相互作用には、衝撃波で分子ガスが圧縮・加熱されたり、ガスの速度の差によって横ずれ運動でガス塊が分裂する「シアー効果(せん断効果)」で分子ガスが拡散したりと、様々な物理過程が含まれる。それらの過程が分子ガスの状態をどう変化させ、最終的に星形成を促進したり抑えたりするのかを解明するのが次の課題だと山本さんたちは考えている。
〈参照〉
- 大阪公立大学:「ステファンの五つ子」銀河群の分子ガス構造を解明 ~星が生まれやすい環境と生まれにくい環境の違いを明らかに~
- The Astrophysical Journal:Molecular Gas Structure and Star Formation Diversity in Stephan’s Quintet Revealed by ACA CO(1–0) Mapping 論文
〈関連リンク
- アルマ望遠鏡
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:ステファンの五つ子銀河(HCG 92)
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