「星の卵」を形づくる物質の速度差から星の誕生に迫る

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原始星のもととなる分子雲ガスで、イオンと中性分子の運動速度に差が検出された。ガスの収縮とともに磁場が抜けていく現象が星形成の鍵となることを示唆している。

【2026年7月23日 九州大学

恒星は星間分子雲の中で、ガスと塵の濃い部分が重力で集まって誕生する。近年の研究で、分子雲の高密度ガスは「フィラメント」と呼ばれるひも状の形に集まっていて、このフィラメントが分裂・収縮して「前恒星コア」となり、これが重力収縮して原始星になることがわかってきた。

このフィラメントには、直交する向きの磁場が付随していることが知られている。ひものようなフィラメントが何本もの磁力線で「串刺し」にされているイメージだ。分子雲のガスは磁力線に沿った方向に動きやすい性質があり、また磁力線どうしは反発する性質を持つため、フィラメントを貫く磁場が強いと、磁場がガスの重力収縮をさまたげ、星形成が遅くなることになる。だが、星形成で磁場がどんな働きをどの程度果たすのかについては不明な点も多い。

分子雲のガスは中性の分子の一部が電離してプラズマになっていて、このプラズマのイオンが磁力線に沿って運動するとともに、中性分子とも衝突する。これによって分子雲のガス全体が磁場と結びついている。やがて、分子雲のガスが前恒星コアの段階になると、電離の度合いが小さくなって磁場とガスの結びつきが弱まり、ガスが磁場にとらわれずに動けるようになって、磁場自体も弱くなる。このように、時間とともに分子雲から磁場が抜けていく現象を「両極性拡散」という。

イオンは磁場に束縛されるが、中性分子は磁力線から離れてコアの中心へと重力収縮できるため、前恒星コアの中ではイオンと中性分子が異なる運動速度の分布を持つはずだ。こうした速度差(速度ドリフト)があることは理論的に予測されていたが、これまで観測でははっきり検出されていなかった。

九州大学高等研究院のDoris Arzoumanianさんたちの研究チームは、スペイン南部に設置されたIRAM 30m電波望遠鏡を用いて、距離約450光年と太陽系に最も近い星形成領域である「おうし座分子雲」の前恒星コア「L1544」を観測した。

おうし座分子雲
おうし座分子雲領域。プレアデス星団(画像右下)の東側から広範囲に広がる、冷たいガスと塵の巨大な領域だ。L1554は画像外(左側)に位置する(撮影:chi_muroさん

Arzoumanianさんたちは、イオンと中性粒子の速度ドリフトを検出するために、イオンである「重水素化ジアゼンニリウムイオン(N2D+)」と中性分子である「重水素化アンモニア(NH2D)」が放つ電波を観測した。

観測で得られたイオンと中性分子の速度分布を比較した結果、前恒星コアの中で、この2つの物質に平均で秒速0.05kmの速度差が検出された。この結果を理論予測と比べて解析したところ、分子雲の中で塵の粒子が成長することで両極性拡散の効率が上がり、イオンと中性分子の速度ドリフトが検出できるほどになったと考えられることがわかった。両極性拡散が前恒星コアの磁場を弱めて重力崩壊のきっかけになるという、原始星の誕生に不可欠な役割を果たしていることがうかがえる結果だ。

この結果から、Arzoumanianさんたちは、イオンと中性粒子のドリフト速度を測定することで、前恒星コア内部の磁場の強さや塵粒子のサイズの分布にも制限を付けられると考えている。

L1544前恒星コアのイメージイラスト
フィラメント状の分子雲に埋め込まれた前恒星コア「L1544」のイメージイラスト。水色の線が磁力線を表し、コアの重力収縮によって曲げられている。赤色の点はイオン、緑色の点は中性分子を表す。コアの外側ではイオンも中性分子も磁力線に結合しているが、コアの内側では中性分子は磁力線から切り離され、磁力線に結合したままのイオンよりも速い速度で中心へ落下していく(提供:九州大学リリース)

星形成前のコアがどんな物理的・化学的条件にあるのかを理解できれば、恒星の周りで惑星や生命がどう生まれるかについても、より的確に追えるようになるだろう。今回の成果は、生命や惑星系の起源に関する手がかりも与えるものだ。

Arzoumanianさんたちは、今後は他の前恒星コアでも観測を積み重ねるとともに、アルマ望遠鏡など高解像度の望遠鏡でコア内部のドリフト速度の空間変動をとらえたいとしている。

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