原始星のスピンダウン機構を大規模シミュレーションで発見

このエントリーをはてなブックマークに追加
成長中の原始星の大規模シミュレーションから、星の回転の勢いを弱める「スピンダウン機構」が見つかった。若い星の自転速度が予想以上に遅いという観測事実の謎を解決し得る成果だ。

【2025年2月20日 大阪大学

宇宙空間で分子ガスが集まっている分子雲のうち、とくに濃い部分は「分子雲コア」と呼ばれる。分子雲コアは恒星が誕生する現場であり、いわば「星のたまご」だ。

分子雲コアから誕生した原始星は、周囲に広がる原始惑星系円盤からガスを取り込んで成長し、その際に「角運動量」(回転の勢い)も受け取る。太陽が自転しているのも、こうした過程から生まれたことによるものである。また、原始星は輝くことで熱を失い、徐々に収縮する。すると、フィギュアスケート選手が腕や脚を縮めて回転の勢いを増していくように、星の半径が小さくなるにつれて原始星の自転が速くなる。

若い星を取り巻く原始惑星系円盤
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した、若い星を取り巻く原始惑星系円盤の例。(左)太陽質量程度の若い星「HD 141943」を取り巻く原始惑星系円盤(白の十字がHD 141943の位置。十字周囲が黒いのは「コロナグラフ」という装置で中心星の明るさを遮っているもの)、(右)HD 141943とその周囲を取り巻く原始惑星系円盤の想像図(提供:NASA, ESA, and R. Soummer (STScI)

角運動量の取り込みと原始星の収縮によって遠心力がどんどん増し、重力を上回ると、星は構造を保つことができなくなるはずだ。しかし実際には、「古典的Tタウリ型星」と呼ばれる若くて質量の小さい星は、限界となる自転速度の10分の1ほどで回転していることが観測からわかっている。この遅い自転速度は「原始星スピンダウン問題」と呼ばれ、理由はわかっていなかった。

大阪大学の髙棹真介さんの研究チームは国立天文台のスーパーコンピュータ「アテルイII」などを用いて、この問題の解明に挑戦した。

シミュレーションと解析の結果、回転する原始星の磁場が円盤ガスの一部を振り回して吹き飛ばし、星の角運動量を抜き取る様子が確認された。これは以前から予想されていた過程ではあるが、今回のシミュレーション研究で乱流を通じて円盤ガスが原始星磁場に供給されるメカニズムが明らかになったおかげで、回転する原始星磁場により巻き上げられる円盤ガスが角運動量を抜き取る過程を、理論的に記述可能になった。

強い磁場をもつ原始星が円盤ガスと相互作用する様子
シミュレーションで示された、強い磁場をもつ原始星が円盤ガスと相互作用する様子(提供:髙棹真介(大阪大学)、以下同)

さらに、円盤の磁場が、原始星に取り込まれる前のガスから効率的に角運動量を抜き取ることもわかった。この円盤磁場が原始星磁場と繋がった結果、原始星は角運動量が抜き取られたガスを取り込むことになる。原始星への角運動量の持ち込みが抑制されるため、原始星磁場が円盤ガスを巻き上げて角運動量を抜き取る効果が顕著となり、原始星は高速回転せずに済む。

原始星と円盤を繋ぐ磁場がガスから効率的に角運動量を抜き取る様子
原始星と円盤を繋ぐ磁場が、原始星に取り込れる前のガスから効率的に角運動量を抜き取っている様子。(上段)アテルイIIによるシミュレーション。スパイラル状の磁場(黄色の線)ができ、その磁場に沿って原始星に近づくガスが磁場を通じて角運動量を円盤ガスへ受け渡す。角運動量を失ったガスを原始星が取り込み、原始星の角運動量が低く抑えられる。(下段)模式図

髙棹さんたちは原始星の進化計算も実施し、円盤ガスの巻き上げ効果によって原始星の角運動量が減少する時間を見積もって、古典的Tタウリ型星の年齢よりも短くなることを示唆するという観測結果と整合的な結果を得ている。

今回の研究成果は恒星の自転進化に関する理解を前進させるものであり、恒星の内部構造の進化や原始星近傍の惑星形成への影響の解明、太陽の進化の理解につながると期待される。

関連記事