原始星には「近所」のガス雲からも星の材料が流れ込む
【2024年4月23日 国立天文台 野辺山宇宙電波観測所】
恒星は星間分子雲の濃い部分(分子雲コア)が重力で収縮して誕生する。最近の観測では、原始星(誕生したての星)が生まれた分子雲コアの外からガスが追加で流れ込んでいる構造がいくつか見つかっていて、「ストリーマー」と呼ばれている。ストリーマーは私たちの太陽系が作られた時代にも存在した可能性があり、最終的にでき上がる星や惑星の化学組成に大きな影響を及ぼすと考えられる。生命を育む惑星系の条件などを理解する上でも重要だ。
地球から約1000光年離れたペルセウス座分子雲には、分子雲コアから生まれたばかりの原始星(クラス0原始星候補天体)である「Per-emb-2」という天体がある。この天体にもストリーマーが見つかっているが、このストリーマーのガス自体がそもそもどこから来ているのかについては、よくわかっていなかった。
国立天文台科学研究部の谷口琴美さんたちの研究チームは、空の広い領域の分子ガスを観測できる野辺山45m望遠鏡のマルチビーム受信機「FOREST」と45GHz受信機「Z45」を使い、Per-emb-2のストリーマーの中に存在する炭素鎖分子(シアノアセチレン(HC3N)、シアノジアセチレン(HC5N)、二炭化硫黄(CCS)、エチニルラジカル(CCH))を観測した。
観測の結果、Per-emb-2のストリーマーの周りに2つのガスのコア(塊)を見つけた。これらのガスの速度を調べたところ、ストリーマーの北に位置するコアがストリーマーに向かって流れてきていることがわかり、このコアがストリーマーのガスの源(リザーバー)であることを突き止めた。
さらに研究チームは、米国のグリーンバンク電波望遠鏡やスペインのIRAM 30m電波望遠鏡といった大型電波望遠鏡による観測データも組み合わせて、Per-emb-2のストリーマーとリザーバーに含まれるガスの温度や密度を導いた。その結果、流入ガスの源であるリザーバーの温度や密度は、星が生まれる前の「星なし分子雲コア」によく似ていることがわかった。
また、観測で得られたCCSとHC3Nの比率を星間雲内の化学反応シミュレーションと比較したところ、このリザーバーとストリーマーは化学的に非常に若く、分子の組成から推定される年齢はどちらもほぼ同じだとわかった。つまり、リザーバーとして同定された分子雲コアが、確かにストリーマーのガスの出所とみてよいということになる。
加えて、リザーバーとストリーマーのガスの質量はそれぞれ約16太陽質量と約13太陽質量、Per-emb-2に向かってストリーマーのガスが流れ込む速度(質量降着率)は1年当たり約9×10-5太陽質量と見積もられた。
算出された値からこのストリーマーの寿命を計算すると、大もとのリザーバーのガスが全てPer-emb-2に流れ込むまで、約20万年はガスの流入が続くことになる。これは、4段階ある原始星の進化段階のうち、第2段階(クラスI原始星)が終わる時代までガスが流入し続けることを意味している。
この結果は、原始星が成長しつつある段階でも、分子雲コアの外から化学組成の違うガスが長期間にわたって流れ込み続け、化学的な特徴が変わり続ける可能性があることを示している。言い換えれば、惑星系の化学的環境は星の成長が止まるギリギリの時代まで変化し続けるということだ。地球に生命が生まれたのも、実は原始太陽系に向かって外部から様々な化学組成のガスが流れ込む中で、たまたま生命の誕生に適した条件のガスが流入した時代に惑星ができたというような、偶然の結果なのかもしれない。
〈参照〉
- 国立天文台野辺山:星が生まれているところに直接流れ込む星の材料はどこからやって来たか? 近所の若い星なしコアからの材料の流れ込み
- The Astrophysical Journal:The Reservoir of the Per-emb-2 Streamer 論文
〈関連リンク〉
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