星を大きく育てる、円盤の渦巻き
【2023年3月2日 国立天文台水沢】
質量が太陽の8倍以上もある重い星は、酸素や炭素をはじめ多くの元素を合成する工場のような役割を果たすとともに、超新星爆発によって周囲の環境に大きな影響を及ぼす。このように大質量星は天文学において重要な存在だが、その誕生プロセスには未解明な部分が多かった。
原始星が大きく育つと、輝きが強烈になり、周囲の物質が光や恒星風に逆らって原始星へ落下することが難しくなる。そのため、一定のペースで物質が降着する単純なモデルでは大質量星の誕生を説明できない。そこで考案されたのが、数百~数千年の間隔でガスと塵が突発的に原始星へ落下する「降着バースト」という仮説だ。2019年1月にへび座の大質量原始星「G358-MM1」で起こった降着バーストが世界中で徹底的に観測されたことで、研究が大きく進んだ。
一般に、原始星を取り巻く物質は円盤を形成している。降着バーストは、この円盤が不安定になることで物質が内側へ落ち込む現象だと解釈できるが、その際に重力の作用で、天の川銀河に見られるような渦巻き構造が円盤に作られる可能性が指摘されていた。だが大質量原始星の多くは太陽系から数千光年以上も離れている上に、その円盤は塵に阻まれて観測が難しいため、渦巻きを実際にとらえることは困難だった。
国立天文台水沢VLBI観測所のRoss Burnsさんたちの研究チームは、世界各地の電波望遠鏡を動員して降着バースト中のG358-MM1を観測していた。円盤から原始星へと物質が落下すると、解放されたエネルギーが円盤のガスを加熱する。Burnsさんたちは、このときに加熱されたメタノール分子が発する強いメーザー放射の位置と回転速度を計測することで円盤の全体像をとらえる、「熱波マッピング」と呼ばれる新しい解析手法を考案した。
今回の研究ではアジア、オセアニア、ヨーロッパ、アメリカにある、VLBI観測網に参加する合計24台の電波望遠鏡からのデータを使って、ミリ秒角(360万分の1度)の解像度で原始星円盤の画像を作成している。その結果、G358-MM1を取り巻く円盤に4本の腕からなる渦巻き構造がとらえられた。
4本の渦巻きは、円盤から原始星へガスや塵を供給する流れを作っているのだと考えられる。その姿がとらえられたことは、突発的な物質の落下によって大質量星が成長するという降着バースト理論の観測的な裏付けとなるものだ。
大質量原始星で降着バーストが起こっている決定的な証拠は、これまでに3天体でしか確認されていない。研究チームは、大質量星形成プロセスの全容解明を目指して、より多くの降着バースト現象を発見したいとしている。
〈参照〉
- 国立天文台水沢:巨大な赤ちゃん星を育てる渦巻き円盤
- Nature Astronomy:A Keplerian disk with a four-arm spiral birthing an episodically accreting high-mass protostar 論文
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