重い星は軽い種からできる
【2023年6月22日 アルマ望遠鏡】
質量が太陽の8倍以上の大質量星は、恒星風や放射、超新星爆発などによって周囲の環境にも大きな影響を及ぼす。一方で、太陽のような小質量星に比べて数がとても少なく、太陽系近傍には存在しないため、大質量星の形成過程には不明な点が多く残されている。
独・マックス・プランク天文学研究所のShanghuo Liさんたちの研究チームは大質量星の形成過程を探るため、重い星が誕生すると見込まれるだけのガスや塵が集まっていて、なおかつ静穏な39の領域をアルマ望遠鏡で観測した。こうした領域は、赤外線観測では暗いシルエットとして見えることから「赤外線暗黒星雲」として知られている。
観測の結果、雲に埋もれた分子雲コアと呼ばれる800個以上の「星の種」が検出された。赤外線暗黒星雲で特定されたものとしては、これまでで最大のサンプルだ。
小質量星の場合、コアの質量のうち最終的に星になるのは30~50%で、残りは赤ちゃん星から噴き出すガス流となる。大質量星も同様だと仮定した場合、見つかったコアの99%以上は、大質量星を形成するために必要な質量に満たないことがわかった。大質量星の形成シナリオは小質量星とは異なっていて、大質量星の種が周囲のガスを取り込んで成長する必要があることを示唆する結果である。
Liさんたちは分子雲コアの分布についても調べている。一般に誕生後の星の場合、大質量星はまとまって、小質量星は散らばって存在している。そこで、分子雲コアの段階でも、質量の違いによって密集の度合いが異なると期待される。
しかし、今回の観測で得られた統計データを分析したところ、分子雲コアの質量による分布に違いは見られなかった。一方、分子雲コア自体の密度が高い場合は群れて存在する傾向があった。つまり、最終的に大質量星になるのは、種の段階で質量が大きいのではなく、密度が高い分子雲コアなのかもしれない。
「大質量星が小質量星とは異なる形成シナリオを持つ可能性を、これまでの研究よりも多くのサンプルからより確実に示すことができました。大質量星の形成の初期段階では、星の種の質量が大きいことよりもその物質密度が高いことのほうが、より重要なようです」(東京大学 森井嘉穂さん)。
「この研究によって生成された星の種のカタログは、大質量星の形成を理解し、既存のモデルを洗練するための重要な基盤となります」(国立天文台 Patricio Sanhuezaさん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:重い星は軽い種からできる
- The Astrophysical Journal:The ALMA Survey of 70μm Dark High-mass Clumps in Early Stages (ASHES). IX. Physical Properties and Spatial Distribution of Cores in IRDCs 論文
〈関連リンク〉
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