星のゆりかごを揺さぶる赤ちゃん星の産声
【2023年2月10日 アルマ望遠鏡】
宇宙に存在する恒星のほとんどは集団で誕生するが、そうした「星団形成領域」の中において、先に生まれた星がその後の星形成に大きな影響を及ぼす可能性が指摘されている。
生まれたての原始星には、周囲から取り込んだ物質の一部が2方向へ吹き出している「双極分子流」が観測され、ときに原始星のサイズの100万倍以上の大きさに広がることがある。その双極分子流は、周辺のガスと塵に衝突することで星の形成を誘発するかもしれないし、逆に星形成の環境をかき乱すなどして周辺の星の成長を邪魔するかもしれない。このような影響を観測的に調べるのは、星団形成領域までの距離が一般的に遠く構造が複雑でもあるため、容易ではない。
九州大学の佐藤亜紗子さんたちの研究チームは、地球から約1400光年と比較的近くにあるオリオン座A分子雲に、高い空間分解能を持つアルマ望遠鏡を向けた。この分子雲には最も若い星団形成領域のひとつである「OMC-2」があり、その一部の領域を観測対象としている。
佐藤さんたちは、塵、一酸化炭素、一酸化ケイ素の3つの物質がどのように分布しているかを広域で調べた。とくに今回のポイントとなるのは一酸化ケイ素で、激しい衝突現象の目印となる物質である。塵の表面に付着しているケイ素(Si)が双極分子流と周辺物質の衝突で宇宙空間に叩き出されると、周辺の酸素(O)と結びついて一酸化炭素(SiO)が観測されるのだ。
観測の結果、これまでに報告されていた数の2倍もの双極分子流が見つかり、複雑な星団形成環境の様子が鮮明に描き出された。最大の成果は、FIR 3と呼ばれる領域の原始星から噴き出た巨大双極分子流が、若い星が密集する領域FIR 4に激しく衝突していることを示す決定的な証拠がとらえられたことだ。
「巨大双極分子流がFIR 4領域にある原始星の材料となる高密度ガスや塵と2か所で衝突した様子を、U字状の衝突面としてはっきりととらえることに成功しました。アルマ望遠鏡の高い感度と空間分解能のおかげで、このように非常に若い星団で形成された原始星の双極分子流が星団形成領域内の他のメンバーに衝突している証拠を撮像することが初めて可能となりました」(国立天文台 髙橋智子さん)。
FIR4に向かって進む巨大双極分子流は、その途中でフィラメント状に広がる分子雲とも激しく衝突しており、分子流内のガスが激しく圧縮されている様子もとらえられた。また、双極分子流と激しく衝突したことで分子雲内の塵が加熱されている証拠も得られている。さらに、その圧縮された分子雲内で星のゆりかごへと育ちうる分裂片が多数見つかった。
今回の観測では、星団形成領域内での巨大双極分子流と若い星たちの衝突がきっかけとなって星団内の星形成が誘発されたのか、あるいは衝突前に星が誕生していたのかについては明確に区別できていない。「それでも今回の結果から、双極分子流が衝突した星団形成領域内のガスや塵を揺さぶり、星が生まれる環境がかき乱されている可能性が示されました。今後、双極分子流によって圧縮されたガスの運動を調べて、星団形成領域内への物質の流入、もしくは分子雲コアの破壊をとらえることができれば、FIR 4がどのような進化をたどり最終的にどれくらい重たい星を形成するのかを予測できます」(佐藤さん)。
〈参照〉
- アルマ望遠鏡:星のゆりかごを揺さぶる若い星からの産声
- The Astrophysical Journal:ALMA Fragmented Source Catalog in Orion (FraSCO). I. Outflow Interaction within an Embedded Cluster in OMC-2/FIR 3, FIR 4, and FIR 5 論文
〈関連リンク〉
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