昔ながらの環境が残る星団の「人口調査」

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天の川銀河の外縁部にあり、元素の組成が100億年前の宇宙に近い大星団で「星の人口調査」が行われた。太陽系近傍の星形成領域と比べると重い星の割合がやや高い一方、太陽より軽い星も多かった。

【2023年7月12日 すばる望遠鏡

星の一生は、誕生時の質量によってほぼ決まっている。軽ければ星の寿命は長く、緩やかに死を迎える。一方、重い星の生涯は短く、最後は超新星爆発で周囲に大きな影響を与える。銀河を構成する星のほとんどは集団で生まれるが、やがて銀河内に散逸していく。そのため、軽い星と重い星がどれだけの割合で生まれているかを表す「初期質量関数(IMF; Initial Mass Function)」は、銀河全体の進化も左右する重要な要素だ。

私たちの太陽系の近傍では、どの星団も似たようなIMFを持つことが知られている。これらの星団の材料には、宇宙誕生当初から存在した水素やヘリウムだけでなく、過去の星が内部の核融合で生成し、超新星爆発とともにばらまいた重い元素も含まれていた。宇宙の歴史をさかのぼると、こうした重い元素の割合は少なかったはずで、それはIMFにも影響を与えた可能性がある。

太陽系が含まれる天の川銀河でも、外縁部に目を向けると、重い元素が少ない領域が残っている。国立天文台の安井千香子さんたちの研究チームは、そうした場所にあるペルセウス座方向の星生成領域「Sh 2-209」(以降 S209)に注目した。S209における水素とヘリウム以外の元素の割合は、太陽系近傍と比べて10分の1程度しかない。これは、約100億年前の宇宙における平均的な環境に相当する。つまり、S209を調べることで、100億年前の宇宙における「星の生まれ方」が示唆される可能性がある。

Sh 2-209
すばる望遠鏡の多天体近赤外撮像分光装置「MOIRCS」がとらえたSh 2-209(擬似カラー)。天の川銀河の外縁部では稀な大規模な星形成領域だ(提供:国立天文台、以下同)

すばる望遠鏡による観測から、太陽質量の10分の1ほどの軽く暗い星までが明確に撮像され、S209は大小2つの星団で構成されていることや、大きい方の星団に約1500個もの星が存在していることがわかった。この恒星数は、これまでに研究されてきた天の川銀河外縁部の星団の10倍以上もある。

この結果により、重い元素が少ない環境におけるIMFを、太陽質量の0.1~20倍という広範囲で、しかも高精度で導き出すことができた。太陽系近傍の星形成領域と比べて、S209では重い星の割合がやや高い傾向にある一方で、太陽よりも軽い星も数多く存在するようだ。

S209と太陽系近傍星団のIMFの比較
S209のIMF(黒色の線)と太陽系近傍の星団における典型的なIMF(オレンジの線)。S209では、太陽系近傍に比べて質量の大きな星がやや多く生まれる一方で、0.1~0.3太陽質量の軽い星も比較的多く生まれていることがわかった

「今回得られた結果は、宇宙初期には重い星が比較的多く形成されるものの、その数自体は、現在の典型的な星団と比べて劇的には変わらないことを示唆するものになりました。様々な環境下でのIMFを調査することで、銀河全体の進化の描像が明らかになっていくことが期待されます」(安井さん)。