最遠方銀河で理論予測を超える活発な星の誕生

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JWSTが発見した2つの銀河の距離が、分光観測により134億光年と正確に測定された。理論より4倍以上も速く星が誕生していることもわかり、宇宙初期の銀河形成が従来の理論と異なる可能性が示された。

【2024年1月9日 東京大学宇宙線研究所

宇宙は138億年前に誕生し、その数億年後に宇宙最初の星や銀河が誕生したと考えられている。こうした時代の銀河の形成や性質を調べるため、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡といった望遠鏡を用いた遠方銀河の探査が精力的に行われてきた。しかし、134億年以前の初期宇宙に銀河は数例しか見つかっておらず、正確な距離もわかっていなかった。これは、初期宇宙の(遠方の)銀河からの光の波長が宇宙膨張に伴って伸びて赤外線となってしまうことと、その赤外線を観測する感度がじゅうぶんではなかったことが原因だ。

2022年6月から科学観測を開始したジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は、他の望遠鏡に比べて赤外線の感度が10倍から1000倍も高く、134億~136億年前の最遠方宇宙に存在する銀河の候補をすでに多数発見している。ただし、これらの天体の正確な距離を決定するには、光を波長ごとに分解して調べる分光観測が必要となる。たとえば、昨夏に136億年前の銀河の候補として報告された「CEERS-93316」は、その後の分光観測から126億年前の銀河であったことが判明し、分光観測が天体の正確な距離の測定に不可欠であることを示す事例の一つとなった。

東京大学宇宙線研究所の播金優一さんたちの研究チームは、JWSTが取得した134億年前の銀河の候補2天体について分光観測データを精査し、酸素の輝線と水素による吸収を99.9999%以上の有意度という高精度で検出した。これにより、それぞれの正確な距離を134.0億光年と134.2億光年と決定することに成功した。銀河中の酸素検出の記録として最遠となる成果だ。

銀河の位置と分光スペクトル
(上)134億光年彼方の2つの銀河の位置。(中、下)JWSTが撮影した銀河の画像(左)と分光スペクトル(右)。酸素輝線(黄色)と水素による吸収(青色)が高精度で検出され、銀河までの距離が正確に測定された(提供:NASA, ESA, CSA, Harikane et al.)

「これまでの最遠方銀河の研究は、画像から見つかった銀河の候補をもとに行われたものがほとんどでしたが、これには銀河までの距離がしっかりと決まっていないという心配が常にありました。今回の研究は分光観測から正確な距離が測定されているため、これまでと比べて信頼度が高い議論が展開でき、科学的に非常に高い価値があります」(国立天文台 中島王彦さん)。

134億~135億光年彼方の宇宙ではこれまでに3個の銀河が分光観測により確認されていた。今回ここに2つが加わり、宇宙誕生後3億~4億年という初期宇宙に存在が確認された銀河の数は計5つとなった。JWSTの打ち上げ前に提唱されたどの理論モデルも予言できていなかった多さだ。

播金さんたちは銀河の明るさをもとにして星形成率も調べ、モデル予測の4倍以上という高い結果を得た。予想より短い時間に次々と星が誕生していることを示唆するもので、初代銀河を含む宇宙初期の銀河の形成過程が従来考えられていた理論とは異なる可能性があるという。

各時代の宇宙全体の星の誕生率
各時代の宇宙全体の星の誕生率。(青線)複数のモデルの予想。133億年前(赤方偏移z=10)までの観測結果(灰色)をうまく再現できることが知られていた。(赤)今回の研究で明らかになった134億~135億年前の銀河から計算した、1年当たりの星の誕生率。モデル予想の4倍以上高い(提供:Harikane et al.)

「初期の宇宙で活発に星を誕生させる何らかのメカニズムがあったことを意味し、星や銀河の誕生に関わる長年の通説に再考を迫る観測結果です。これら5つの銀河が、星ではなく大質量ブラックホールの活動によって明るく輝いている可能性もありますが、その場合、大質量ブラックホールが宇宙の非常に早い時代に出現していたことになります。それが正しければブラックホールの誕生と成長に対しても大きな問題提起となるでしょう」(東京大学宇宙線研究所・国立天文台 大内正己さん)。