120億年前の初期宇宙で衝突合体中の赤ちゃん銀河
【2023年10月5日 京都大学】
誕生してから間もない、現在から見ればはるか昔の宇宙には、作られたばかりの銀河が多数存在したと考えられる。こうした「赤ちゃん銀河」は遠くて暗いため観測が困難であり、銀河が初期宇宙でどのように成長進化を遂げたのかはよくわかっていない。
大規模国際観測プロジェクト「CAnadian NIRISS Unbiased Cluster Survey」(CANUCS)では、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と重力レンズ効果を組み合わせた観測により赤ちゃん銀河の様子を調べて、銀河の宇宙論的進化の様子を明らかにしようとしている。初期宇宙の天体からの光は宇宙膨張に伴う赤方偏移によって波長が伸びるため、発せられた可視光線は赤外線として観測される。JWSTはこの赤外線での観測に高い能力を発揮し、優れた解像度や感度で銀河をとらえることが可能だ。さらに、遠方天体からの光が、地球から見てその手前に存在する銀河や銀河団の重力によって本来よりも明るく観測される「重力レンズ効果」を利用すると、いっそう詳しく銀河の様子を調べることができるのだ。
京都大学の浅田喜久さんたちはCANUCSプロジェクトの観測で、エリダヌス座方向に広がる銀河団「MACS J0417.5-1154」の背後の領域を調査し、およそ120億年前(宇宙誕生から約10億年未満)の時代に存在する2つの銀河が衝突している様子を発見した。どちらの銀河も天の川銀河の1万分の1以下という超低質量で、形成されて間もない天体と考えられている。
また、2つの赤ちゃん銀河では活発な星形成が進んでいることも明らかになった。銀河衝突によって星形成活動が誘発されているとみられる。研究チームでは、これらの銀河の進化の大部分が衝突で進むと予想しており、両銀河が合体して1つになると星質量が元の銀河の4倍以上になると推測している。
「銀河同士の衝突とそれに伴う活発な星形成活動が、銀河進化の初期段階において重要な成長メカニズムである可能性が観測から示唆されました。このような遠方にある超低質量銀河の進化の解明はJWSTが目指す一大科学目標の一つであり、今回の成果は今後のJWSTによる観測的研究の先駆けとなります」(浅田さん)。
〈参照〉
- 京都大学:JWSTが捉えた「赤ちゃん銀河」同士の合体成長の現場
- MNRAS Letters:JWST catches the assembly of a z ~ 5 ultra-low-mass galaxy 論文
〈関連リンク〉
- CANUCS
- NASA - James Webb Space Telescope:
- STScI:
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