初期宇宙で回転を始めた銀河

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ビッグバンから5億年後の初期宇宙に存在する銀河から回転運動の兆候が検出された。速度は遅く、回転を始めたばかりのようだ。

【2022年7月7日 アルマ望遠鏡

私たちが住む天の川銀河の円盤は秒速220kmで回転しており、その猛烈な速さによる遠心力で円盤の形状が保たれている。このような銀河の回転はいつごろ発達したのだろうか。

最初期の銀河が回転運動をしているのかどうか調べることは、銀河の形成過程を理解するうえで重要な手がかりとなる。銀河が最初から回転していたのであれば、周りから継続的にガスを集めながら渦を形成したことが示唆される。一方、回転がなかった場合は、小銀河の衝突を繰り返すことで無秩序に成長したのだと考えられる。

遠方を観測して過去にさかのぼると、120億年以上前の宇宙でも回転する巨大な円盤銀河や渦巻銀河が見つかっているが、130億年ほど前になると、ほとんど回転していない銀河も発見されている。ただしこれほど遠方では、銀河が回転していたとしてもそれを検出すること自体が難しくなる。銀河をある程度の大きさでとらえ、さらに円盤が私たちに向かう動きと遠ざかる動きの両方を観測する必要があるからだ。

早稲田大学の徳岡剛史さんたちの研究チームは、観測史上最遠クラスである132.8億光年彼方の銀河である、おとめ座方向の「MACS1149-JD1」(以後MACS1149)をアルマ望遠鏡で観測した。この銀河は以前にもアルマ望遠鏡で観測されたが、今回は空間分解能を2.5倍高めて銀河内部の構造や運動を調べ、回転運動の兆候をとらえることに成功した。

MACS1149-JD1の想像図
MACS1149-JD1の想像図(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO))

MACS1149の直径は約3000光年と測定され、回転速度(秒速約50km)の情報との組み合わせから、質量が太陽の約10億倍と推定された。これは以前の観測でスペクトルの概形と光度から推定された質量と一致する。その大半を占めるのは、生まれてから2~3億年程度の恒星たちだと結論づけられている。つまり、MACS1149はビッグバンの約2.5億年後に形成され、それから観測時点(ビッグバンから5億年後)までに回転運動が始まったようだ。

MACS1149の観測速度マップとベストフィットモデル
(左)アルマ望遠鏡で取得したMACS1149の観測速度マップ。等高線はO2+イオンガスの明るさ分布を表す。着色部は速度測定がじゅうぶんできた領域で、赤色は私たちから遠ざかる方向、青は近づく方向にガスが動いていることを示す(濃いほど速い)。グラデーションが見えていることは、ガスが円盤状に回転している可能性を示す。(右)回転速度などの物理量を導出するために作成した、速度マップに対するベストフィットモデル(提供:Tokuoka et al.)

MACS1149はジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡での観測も予定されており、円盤の構造や恒星の分布などが明らかになることが期待される。これらの観測を通じて、銀河形成の理解が進むだろう。