「迷子星」の光から銀河団の歴史をさぐる

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ハッブル宇宙望遠鏡の観測から、銀河団の中に散らばっている孤立した星々が数十億年前からすでに存在していたことが示された。

【2023年1月13日 NASA

数百から数千個の銀河が集まった「銀河団」の内部には、どの銀河とも重力的に結び付いていない迷子のような星がたくさん存在する。銀河団全体を眺めると、これらの星々が「銀河間光(intracluster light; ICL)」という淡く広がった光を放っている。

これらの孤立した星々がいつ、どのようにして銀河団の中に散らばったのかについては、「銀河団の中を銀河が運動することで星々がはぎ取られる」「銀河の衝突合体で星々が放出される」「銀河団が形成された数十億年前にはすでに存在していた」など、いくつかの説があって決着がついていない。

韓国・延世大学校のHyungjin Jooさんたちの研究チームはハッブル宇宙望遠鏡を使って、赤方偏移zがおよそ1から2(80億~100億光年)までの距離にある10個の銀河団を近赤外線で観測した。

その結果、銀河間光が銀河団全体の明るさに占める割合は、過去数十億年にわたってほぼ一定であることが明らかになった。これはつまり、銀河間光の光源である迷子の星々が数十億年前からすでに銀河団の中に存在していることを示している。

銀河団の銀河間光
ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた大質量銀河団「MOO J1014+0038」(左)と「SPT-CL J2106-5844」(右)。3つの波長の近赤外線画像から擬似カラー合成した画像に、銀河間光の成分を青色で重ねている。画像クリックで拡大表示(提供:NASA、ESA、STScI、James Jee(延世大学); 画像処理: Joseph DePasquale (STScI))

一般に、銀河団のメンバー銀河が銀河団の内部を運動すると、銀河団ガスの抗力を受けて銀河内のガスや塵が銀河から失われ、銀河の星々も銀河外に散乱すると考えられる。しかし、今回のJooさんたちの観測結果から、このような比較的新しい時代に起こる力学的な作用は、迷子星ができる主な原因ではないらしいことがわかった。もしこうしたメカニズムが原因なら、銀河間光の明るさ(=迷子星の数)は時代とともに増していくはずだからだ。

銀河間光を作り出している星々が迷子になった原因はまだ正確にはわからないが、今回の観測結果から、宇宙の初期段階にはすでに、何らかの原因で大量の迷子星が銀河団の中に存在したことになる。「銀河団が形成された初期の時代には、銀河はまだかなり小さくて重力が弱かったために、簡単に星が銀河外へ流出できたのかもしれません」(延世大学校 James Jeeさん)。

もし迷子星が宇宙の初期に生まれたのであれば、こうした星々は長い時間をかけてすでに銀河団のすみずみまで広く散らばっていることになる。だとすると、銀河や銀河団を重力でまとめている「暗黒物質」の分布を探るために、迷子星を利用できるかもしれない。銀河団内の暗黒物質の分布は、現在は背景銀河の像が銀河団の重力レンズ効果で歪む様子をたくさん調べることで推定しているが、銀河間光を使うことで従来の手法を補える可能性がある。近赤外線で高い感度を持つジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡で迷子星を観測して銀河団全体の暗黒物質の分布を調べられるようになれば、銀河団の歴史を理解するのに大いに役立つだろう。

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