磁力線を巻き込み成長する赤ちゃん星
【2023年2月16日 鹿児島大学/ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡】
「おうし座分子雲」はおうし座からぎょしゃ座、ペルセウス座などにかけて広がる大きな分子雲で、地球から約450光年と最も近い星形成領域だ。生まれたばかりの若い星がたくさん存在するが、大質量星があまりなく、個々の天体を観測しやすい。
分子雲の中でとくに物質が濃く集まっている部分を分子雲コアといい、この分子雲コアが重力で収縮することで新たな赤ちゃん星(原始星)が誕生する。分子雲コアの内部では、ガスの乱流や磁場など、ガスの重力収縮をさまたげる力も働くため、原始星ができる初期段階を理解するためには、重力と乱流や磁場の作用をあわせて知ることが重要だ。
鹿児島大学の深谷紗希子さんたちの研究チームは、米・ハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)を使い、おうし座分子雲にある分子雲コアの一つ「L1521 F」の周囲をサブミリ波で観測した。L1521 Fの中心には質量が太陽の0.2倍程度の原始星が生まれていて、原始星の周りのガスが複雑な運動をしていることがわかっている。
一般に、分子雲には大量の塵が含まれていて、この塵からサブミリ波という電波が熱放射として放射される。このとき、分子雲の内部に磁場が存在すると、特定の向きに振動するサブミリ波が多くなる「偏波」が生じる(可視光線の「偏光」と同じ現象)。そのため、偏波を観測すれば分子雲内部の磁場の方向がわかる。そこで深谷さんたちは、L1521 Fの周辺から放射されるサブミリ波の偏波の様子を詳しく観測した。
観測の結果、L1521 Fの外縁部では磁場がほぼ南北方向を向いているのに対して、より温度が高いコアの中心部では東西方向の磁場が卓越していることが明らかになった。また、観測されたサブミリ波のスペクトルをモデルと組み合わせることで、原始星の半径が太陽半径の約11倍で温度は約2000Kであること、原始星から吹き出す双極分子流という流れによって、分子雲コアに空洞ができているらしいことなどがわかった。さらに、L1521 Fではガスを収縮させる重力の方が収縮をさまたげる磁場の力よりも強い状態にあることも明らかになった。
これらの観測結果を基に、L1521 Fのガスや磁場の詳細な3次元構造を磁気流体力学(MHD)シミュレーションで計算したところ、この分子雲コアには全体として南北方向の磁場が存在しているが、中心で生まれたガス円盤の回転軸は磁場に対してほぼ横倒しになっていて、そのために中心部ではガス円盤の回転で磁場がねじ曲げられ、東西方向の磁場が強く見えていると考えられることがわかった。成長しつつある原始星のガス円盤と磁場の相互作用を観測データからこれほど詳しく再現できたのは世界初だ。
研究チームでは、今後もL1521 Fのような天体をさらに調べ、星形成が起こっている典型的な分子雲コアの性質を明らかにしたいと考えている。「今回のJCMTの観測ではまさに星が生まれつつある瞬間がとらえていて本当にエキサイティングです。星形成の過程を理解することは、地球という様々な物質からなる惑星がどのように誕生したのかを知る上でも重要です。非常にわくわくします」(鹿児島大学 新永裕子さん)。
〈参照〉
- 鹿児島大学:電波で探る「胎児星」誕生の瞬間~磁力線を巻き込みながら母体中で成長する様子をとらえた!
- James Clerk Maxwell Telescope:JCMT Astronomers Watch the Battle Between Gravity and Magnetic Fields in Taurus
- PASJ:Twisted magnetic field in star formation processes of L1521 F revealed by submillimeter dual-band polarimetry using the James Clerk Maxwell Telescope 論文
〈関連リンク〉
- East Asian Observatory
- アストロアーツ 天体写真ギャラリー:おうし座分子雲
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