赤ちゃん星が起こしたダイナミックな磁束放出
【2024年4月17日 九州大学】
太陽をはじめとする恒星は、「分子雲コア」と呼ばれる星の卵が重力で収縮することで誕生する。この分子雲コアは磁力が働いていて、分子雲コアが収縮して原始星(赤ちゃん星)が誕生する際に、磁力線がたばねられた磁束も一緒に星に持ち込まれる。
しかし、磁束が全部持ち込まれると、現在の太陽や既知の原始星が持つものより何桁も大きい磁力が発生してしまう。そのため、星が誕生する過程で磁束が捨て去られる必要がある。長い時間をかけて、一定の割合でじわじわと磁束が抜かれ磁力が弱まっていくという考え方が主流だが、仕組みはよくわかっていない。
この「磁束問題」に迫るため、九州大学/国立天文台アルマプロジェクトの徳田一起さんたちの研究チームはアルマ望遠鏡を用いて、おうし座分子雲内の「MC 27」という分子雲コアに潜む原始星を高解像度で観測した。この分子雲領域は約450光年の距離にあり、星の誕生現場としては最も近いものだ。
その結果、従来の考え方とは異なり、一気に磁束が捨て去られたと思われるスパイク状の構造が見つかった。この構造は原始星周囲の円盤から数億kmにわたって伸びている棘のようなものだ。また、約2000天文単位(3000億km)に及ぶ弓状のガス雲も観測された。
「データの分析から、原始星系円盤から数天文単位に伸びる“スパイク状”の構造が見つかりました。それは磁束、ダスト、ガスが放出されたもので、磁場の不安定性が原始星円盤内のガスの密度の違いと反応して、磁束が外側に放出されたものです。人間がほこりやウイルスを空気とともに一気に押し出すくしゃみを思わせるので、赤ちゃん星の“くしゃみ”と名付けました」(徳田さん)。
棘のような構造は、中心星と円盤の質量に起因する重力不安定性や他の分裂メカニズムでは説明できない。徳田さんたちは、磁束輸送現象として、円盤の縁に磁束が集中した際に原始星から離れる方向に浮力が働く現象「交換型不安定性」に着目し、棘は不安定性が起こった瞬間に作られるガス空洞の端の濃い淀みであり、磁束が抜ける現場をとらえたものだと考えている。一方、弓状のガス雲は、過去の「くしゃみ」によって生じた空洞が毎秒200m程度の速度で成長した結果生じた構造と考えられる。過去にも「くしゃみ」が起こっていたという予想外の可能性を示唆するものだ。
分子雲コアと原始星との間には、磁束問題以外に、両者の角運動量に5桁以上の差がある「角運動量問題」も存在する。つまり、星の誕生を理解するには、星の卵による回転の勢いと磁束の捨て去りという2つの大きな問題を解決する必要があるが、磁束と同様に角運動量も星の収縮段階で失われると考えられる。この、星の回転を弱める角運動量の輸送には、赤ちゃん星の「うぶ声」として知られる、原始星円盤の上下に噴き出すアウトフローが密接に関わっていることがわかっている。
今回見つかった赤ちゃん星の「くしゃみ」は「うぶ声」より少し穏やかな現象で、磁束が捨て去られる磁束問題の解決に直結するものとみられる。「うぶ声」と並んで「くしゃみ」は、赤ちゃん星の誕生と成長の謎を明らかにする大事な要素になり得るものだ。今後、「くしゃみ」が起こる条件を理論計算や観測で詳しく調べることにより、赤ちゃん星の形成過程や、原始星円盤とその中に含まれる微粒子などの特徴の理解が進むと期待される。
〈参照〉
- 九州大学:赤ちゃん星の"くしゃみ"を捉えたか? アルマ望遠鏡が目撃したダイナミックな磁束放出
- The Astrophysical Journal:Discovery of Asymmetric Spike-like Structures of the 10 au Disk around the Very Low-luminosity Protostar Embedded in the Taurus Dense Core MC 27/L1521F with ALMA 論文
〈関連リンク〉
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