磁場で超高速回転する原始星ジェット
【2021年7月29日 九州大学】
宇宙空間のガスが集まって恒星が誕生するとき、ガスは回転しながら収縮していく。その中心で原始星(赤ちゃん星)が生まれると同時に、ガスの一部は両極方向に噴出するジェットとなる。ジェットは成長を続ける原始星から材料を奪うなど、原始星が一人前の恒星になる過程で様々な役割を果たしていると考えられるが、そのメカニズムについては明確にはわかっていなかった。
アルマ望遠鏡で原始星ジェットの観測を続けてきた国立天文台/九州大学の松下祐子さんたちの研究グループは、原始星とジェットの回転に焦点を当てる成果を発表した。
松下さんたちはオリオン座の星形成領域にある原始星FIR 6Bとそこから噴出するジェットをALMA望遠鏡で撮影した。ジェットの電波は軸の両側で波長が異なっている。これはジェットが高速で回転しているために、私たちの方向へ運動するガスと奥へ運動するガスにそれぞれドップラー効果が働くことによるものだ。回転速度は最低でも秒速20kmと見積もられた。この速度や、回転軸からの距離などを考慮した角運動量は、これまでに回転が検出されたジェットの中で最も大きなものだった。
この回転速度と角運動量は従来の理論では説明できないため、松下さんたちは磁気駆動モデルを当てはめることを提唱した。原始星の周りでは回転するガスが円盤を形成しているが、この回転の力が磁場によって遠く離れたジェットの物質に伝わり強制的に回転させているというのがこのモデルの考え方だ。分析によれば、原始星から半径3天文単位(約4.5億km)にある円盤の回転が100天文単位(150億km)離れたところへ伝わっているという。
今回の研究により、ジェットが磁場の効果によって出現することも明確になった。また、通常の恒星が持つ角運動量は、元となる星間物質が持つ角運動量に比べて小さいことがわかっているが、FIR 6Bの観測結果はジェットがこの角運動量を持ち去る役割を果たしていることを示している。
「ジェットの回転を検出することは難しく、ダメ元で結果を出してみたところ、綺麗な回転が見えたので、とても感動しました。また、回転速度や角運動量が他の星からのジェットや理論予測よりも大きいことにも驚きました」(松下さん)。
〈参照〉
- 九州大学:ALMA望遠鏡による超高速回転原始星ジェットの検出
- アルマ望遠鏡:アルマ望遠鏡による超高速回転原始星ジェットの検出
- The Astrophysical Journal:Super-Fast Rotation in the OMC 2/FIR 6b Jet 論文
〈関連リンク〉
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