原始惑星系円盤の3次元磁場構造の見積もりに初めて成功

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若い恒星を取り巻く原始惑星系円盤の偏光観測から、円盤の3次元磁場構造が初めて見積もられた。研究手法の開発とともに、惑星形成に対する磁場の役割解明にも貢献する成果だ。

【2025年2月13日 アルマ望遠鏡

惑星は、誕生間もない若い星を取り巻く原始惑星系円盤の中で、星間塵(ダスト)や星間ガスが集まって形成されると考えられているが、惑星形成の環境や円盤内の物理的条件についてはまだ多くの謎が残されている。

そのなかでも、磁場は円盤の中の乱流や物質の動きを決定する重要な要素とされ、星や惑星の誕生に深く関わっていると考えられているが、これまで磁場の観測は非常に困難だった。

国立天文台の大橋聡史さんたちの研究チームは、おおかみ座の方向450光年彼方にあり、惑星の形成が進んでいるとみられている若い星「HD 142527」を取り巻く原始惑星系円盤の偏光の様子をアルマ望遠鏡で観測した。さらに、過去に観測された他波長の偏光データも用いて解析を行った。

その結果、円盤の南側の塵が少ない領域で、観測波長全てで同じ偏光パターンが見られることが明らかになった。この特徴的な偏光パターン(偏光ベクトルが円盤の動径方向にそろい、10%以上の高い偏光度を示す)が、磁場によって生み出されていることを示すものである。

HD 142527の原始惑星系円盤の電波強度マップ
アルマ望遠鏡で過去に波長0.9mmで観測した、HD 142527の原始惑星系円盤の電波強度マップ。円盤の南側(画像下部)で、磁場による偏光が観測された。白線は磁場の方向を示す(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S. Ohashi et al.、以下同)

さらに大橋さんたちは、円盤の回転方向に沿って磁場の方向が少し変動していることも発見した。変動の原因は磁場の3次元構造にあるとみられ、この3次元構造によって円盤で強い乱流場が作られている可能性もある。

HD 142527の原始惑星系円盤の想像図と磁力線
HD 142527の原始惑星系円盤の想像図と磁力線(青い線)

これまでに確認されている多数の原始惑星系円盤のなかで、磁場の詳細構造がわかったのは今回が初めてだ。一方、HD 142527のような若い星において、磁場が星や円盤の鉛直方向にもある程度の強さで向いていることは予想外であり、今後さらに観測やシミュレーション研究が必要となる。

「本研究では原始惑星系円盤で磁場が観測される条件を明らかにし、さらに磁場の3次元構造や強度を見積もる方法を示しており、今後の円盤磁場の観測研究に大きく役立つと考えます。一方で、地球のような惑星の形成において、強い乱流状態では星間ダストが互いに高速で衝突することで破壊され、惑星が形成されない可能性があります。今回の観測では中心星から比較的遠くの磁場を観測できましたが、地球のような太陽や恒星の近くを回る惑星が形成する場所での磁場を調べることが今後重要となります。磁場が惑星形成にどのような影響を及ぼすのか、今後の研究を導く重要な観測成果となります」(大橋さん)。

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